西浦

□素直になってよ
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「俺、篠岡のことが好きなんだ。」


私は、文貴に話があるからと屋上まで呼び出されて、私に向かってきた言葉はそれだった。

まさか...と思った。絶対に...そんなことがあるはずはない!あってほしくない...。私はそう思った。

私達は幼馴染み。家が隣同士で無断で家に出入りするぐらい仲が良い。
そして、中学の頃には

「名前!好きだ!!」

というふうに私達は幼馴染みから状況が少しずつ変わった。


中学のいつからだろう...文貴が私のことを普通に女子として見るようになったのは...
いつだったか文貴に屋上で告白された。

「俺さ、名前のことを幼馴染みとしてじゃなく、女の子として好きなんだ。」

そう告げられた。
でも、私は...

「え〜文貴ったら!そんな冗談止めてよ!」

...というふうに本気だと思っていなかったので冗談だと受け止めた。

...それからというもの...

「名前!!好きだ!!」

そうやって中学では毎日のように告白され続けた。

さすがに冗談じゃない..本気なんだと思った。
だけど私は...まだこの時は幼馴染み以上に文貴のことを好きになんてなれなかった。
その気持ちを文貴に告げた。


「じゃあ、俺...名前が俺のこと本気で好きになるまで待つし、何度だって『好きだ』って言う。絶対に俺のこと好きになってもらうから。」

...と、真剣な表情で言われた。

文貴の言葉通り、それからも告白はされ続けた。
そうやって私のことを想い続ける文貴に、私も幼馴染みとしてではなく、男の子として意識するようになった。
それでも、幼馴染みという関係を壊すことができなかった。

恋人同士になって、今までのように仲良く接することができなくなるのではと思うと怖かった。...だから...

「やっぱり私、文貴のこと好きにはなれない。」

そう告げた...

中3の卒業式。

それから文貴は私のことを好きだと言わなくなった。

そして...今に至る。

「俺、篠岡のことが好きなんだ。」

胸が痛い。突き放したのは私なのに...。
だけど...全部自分が悪い。
文貴の恋を応援してあげなくちゃ。
応援...できる? 私に...?

初めて気がついた。文貴のことがこんなにも好きだって..まさかこんな気持ちになるぐらいまで好きだったなんて...

やだ...私以外の人のことを見ないでよ..

だけど、私の自分の気持ちは全部言葉に出さないで押し殺した。

「へえ〜...そうなんだぁ〜...。千代ちゃん、可愛いもんねぇ〜。」

私、今笑えてる?ちゃんと...笑えてる?

「...私が手伝ってあげよっか?」

うわぁ〜...思ってもいない言葉出てきちゃった...。私の悪い癖。

「うん。名前に協力してもらえるんなら心強いや。」

文貴はニッコリと笑った。

これは全部...自分の気持ちに素直にならなかった自分が悪いんだ...。
だから、仕方ない。

でも、もしも、私と付き合っていたとしても...千代ちゃんのことを好きにならないで...私のことを好きでいた?
どうなんだろう...。

それから...私達は同じクラスであり、千代ちゃんとも同じクラスで、千代ちゃんは野球部のマネージャーもしているからチャンスはいっぱいあった。

話し掛けるチャンス、重い荷物を持っていたときに助けるチャンス、...告白のチャンス...。
たくさん協力し続けた。

...もう..引き返せない。


そして、来てしまった悪夢。

「俺さ、そろそろ...篠岡に告ろうと思うんだけど...どう思う?」


ドキッ


 するんだ...告白。


「い..いいんじゃない!?なんか2人仲良いし...きっとOKくれるよ!文貴なら大丈夫!!」

まただ...言いたくない言葉ばっかり言っちゃって..でも実際...文貴と千代ちゃん...お似合いだと思う。

「マジ!?じゃあ、俺今から告白しに行くわ。」

「...え!?今!?」

今...じゃあ、もう本当に...
でも...

「そっか...!頑張ってね!!」


一番無理して笑った瞬間。笑顔作るのって...こんなに難しかったっけ?

「じゃあ、行ってくんね。」

「うん。行ってらっしゃい。」

そうして、屋上に居た私達の姿から文貴が消えた。
私はずっと溜めていた涙を今流した。


「ふ...みき...好きだよ...行かないでほしかった...。」


私の目からはポタポタと涙が流れる。




ガシャンッ


ビクッ

「名前!!」

「ふみ...

文貴は走って私に近寄り、私を力強く抱き締めた。


「ふみ...き?」

「なんで...俺の前で言ってくんないの?素直になってよ。」


もしかして...気付いてたの?私の気持ち...でも...なんで...


「千代ちゃんのこと好きなんじゃ...」

「あんなの嘘だよ。名前に、自分の気持ちに素直になってほしくて...」

「なんで私の気持ち...」

「知ってるに決まってんじゃん。俺はずっとお前のことだけ見てきたんだから...。」


すると私の目にまた涙が溢れた。


「文貴好き、好きだよぉ〜!!」


子供のように文貴に泣いてすがりつく私...

「俺も好きだよ。」

初めて文貴の前で『好き』と言葉にした。すごくスッキリした。

幼馴染みがなんだ。
私ってばなんであんな不安になってたのかな...。

今では素直に言葉にできる。

素直になってよ

(俺の前では絶対嘘とかつかないで)
(うん!!)

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