短編部屋
□言葉にできない
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「ねぇ、トシ。あのさ…」
「ん?どうしたんだよ」
「じ、つは…ね」
(あなたのことが好き)
そう言葉にしたいのに、喉まできて虚しくもその言葉は空に消えてしまう。
「おい、苦しそうだぞ。気分悪いのか?」
私は黙って首を横に振る。
本当は苦しい。
とっても苦しいの。
息が思うようにできなくて、胸がズキンと締め付けられて。
でも言えない。
あなたのことが好きすぎて苦しいだなんて言えないよ…。
本当は今すぐにでも
好きって伝えたい。
でも恐怖心が邪魔してしまう。
震える唇を微かに動かすも声はどうしても出すことができなくて、私はじわじわと涙が目に溜まってくる。
ふいにポンッと頭にトシの手がのった。
それだけでもとっても嬉しくて、でもすっごく苦しくて。
「何でも言えよ。俺でよかったら聞いてやる」
「う、ん…あのね…実は、…す……………………………総悟が明日トシのマヨネーズをカラシにすり替えようって話してたの聞いちゃって」
「…チッ、総悟の野郎…。でも話はそれだけなのか?」
「うん、…ごめん時間とらして」
「なんだよ、らしくねーなァ…もしかして総悟に脅されてるとかか?」
「うん、そんなとこ」
「ありがとな、じゃ俺は用事があるから…。また明日な」
「また明日っ」
ガラガラ―。
言えなかった。
最後の最後まで。
今さら涙の粒がぽろぽろと溢れだす。
私、何やってるんだろ。たったの好きっていう二文字がどうして言えないの。
どうしてこんなにも苦しいの。
伝えないと何も始まらないのに、それすらも躊躇してしまい言えずにいる私。
もどかしさが込み上げる。こんな自分に呆れてしまう。ほんと、私意気地無し。
素直になりたいのに、素直になれない自分が嫌い。
言葉にできない
あなたに告げる愛の言葉