短編部屋

□そんな気がした
1ページ/1ページ


攘夷戦争の終末――。

俺は沢山の天人を斬ってきた。沢山の命を奪った。侍の国を守るため、松陽先生の仇を討つために。
ただただがむしゃらに…。


だが天人の命を奪う以上に仲間を次々と失い、俺の周りにはもう数える程しかいなかった。

結局、俺は何のために戦ったのか――。

本当に国を守るためだったのか…。
本当にこんなんで仇なんて討つことが出来たのだろうか。



いや、結局俺は何も出来なかったんだ。

数え切れない仲間を救うことが出来なかった。
沢山の命を犠牲にしただけで得るものなんか何もなかった。



もう、この戦争は幕を閉じるだろう――。


これからこの国は天人のいいなりになってあいつらと共存してかにゃならねェ…。

一体俺はどうしたらいいのだろうか。



俺は林の中に身を潜め、戦う気力も逃げる気力も失った気だるい身体を木に預けたった一人で座っている。

身体のあちこちには沢山浴びた返り血が染み付いて白い服が紅く染まるほど。


虚ろな目はただ目の前の景色を映すだけで何も見ようともしない。
耳に入ってくるは、遠くで刀が交じり合う音と爆発音。



何時間こうしていただろうか。
段々日が傾きもうそろそろ夜が訪れようとしていた頃だった。

俺はゆっくり辺りを見回すといつの間にかいたのか、俺の横には土だらけの着物を着た女が立っていた。

所々着物が破れていて足には擦り傷でいっぱいだった。
多分、戦に巻き込まれまいと必死に逃げてきたんだろう。
痛々しい傷がそう物語っているように感じた。


虚ろな目でただ彼女を見つめるとその女は俺のそばにしゃがみこみ、肩にそっと触れてくる。


「……怪我、してるの?」

心配そうに体のあちこちを見ているが俺はそんなにやわじゃない。

「いや、これは返り血だ。俺は怪我なんざしてねェよ」


「…そう。じゃあ、なんでここにずっと座っているの?」


彼女は俺の横に腰掛け顔をこちらに向ける。

「何で、戦っているのか…何で刀を握っているのか、分からなくなった」


「……そう、」

「俺は一体何のために刀を振るってきたのか、天人を斬って何になるのか分からなくなっちまった…」


「俺は一体どうしたらいいのか、分からない」



静寂が俺達を包む。
空を見渡せばオレンジ色だった空が今じゃ黒く染まっていた。



そんな中、彼女がそっと沈黙を破るように呟く。



「貴方はきっと…守りたいものを守れなくて失望しているだけなのよ」

「………………」



「貴方はこの戦で大切なものを失いすぎてしまった…違う?」


「あァ…」


「大丈夫。貴方はちょっと混乱してるだけ。きっと答えは見つかるわ」

そう優しくもきっぱりと断言するものだから、俺は思わず目を見開いて彼女を見る。
すると彼女は綺麗な顔でやんわりと優しく微笑んでいた。




あぁ、彼女はきっとすでに答えを知っていて、そして俺の全てを受け入れてくれる人なのだろう。



そんな気がした





そして色々話していくうちに段々と俺はこの人に惹かれていく。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ