短編部屋1
□それでも私は…
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「ゴホ、ゴホッ…ケホッ」
「総悟……」
背中を摩ろうと、手を伸ばせばパチンッと弾かれる。
「部屋に来るなって言っただろィ……」
「で、でも」
「出ていってくだせェ」
「………」
総悟は声を低くしてそう言った。
私はすっと立ち上がり、襖の方へと歩いて行く。襖に手を掛けると、総悟に「また来るね」と一言残し部屋を出る。
パタンッ―ー
ポタッ
総悟の部屋の前で私はいつの間にか、涙を流していた。
総悟が…
総悟が結核だなんて。
―――――――――――
「不治の病です。持ってあと二、三ヶ月でしょう…」
「そ…んな……」
私は全身の力が抜けたような気がした。
総悟がもうすぐ死ぬだなんて信じられない。
私は機械のようにただ淡々と話す医者の言葉が耳に入らなかった。
―――――――――――
私はこれから先のことを考えると、涙がまたたくさん溢れてくる。
総悟がいなくなるなんてやだ…。
しばらく総悟の部屋の前で泣いていると
「ゲホッゲホッ…ゲホゲホッ」
「総悟!!」
襖を少し乱暴に開け、慌てて総悟に駆け寄る。
近くに置いてある水を少しずつ総悟に飲ませ、咳を落ち着かせる。
「来んな……って言っ……た…ケホッ」
「無理に喋らないで」
「移った…ら……どう…すんでィ…」
「…大丈夫だから……」
それでも私は…
総悟の傍にいたいの。
愛してるから…。
でも一緒に居たって、何の力にもなれない私は迷惑以外の何者でもないのかな。
俺に近寄らないでくだせェ…
お前に迷惑を掛けたくないんでさァ。
俺はお前を愛してるんでィ。わかってくだせェ……。
終