(きめた このひとたちに する) ふと下腹部を大事そうにおさえる彼女を見て、無意識に彼も、その彼女の右手に重ねるようにして右手を乗せた。 その時、片隅にあった記憶をふと、巡らせた。 (このひと とっても やさしそう) 〈私ね、冷え症なの〉 彼の頭の中で、彼女が言っていた言葉がよぎる。彼女の手を握るたびに、まるで血が通っていないかのような、冷たい感触を味わっていたことを彼は思い出した。 特に冬の季節になると、まるで凍らされたかのように冷たくなることに悩まされて、困り顔で手を擦る彼女の残像がフラッシュバックした。 (なでてくれるてが とっても あったかいんだ) 同じ者の手とは思えないほど、とても温かかった。 驚きを隠せなかった。ずっと触れていたい、そう思いたくなる温もりなのである。それが母親の手であることに気付くのは難しいことではなかった。そして彼自身も気付く。重ねている自分の手もまた同様のものである、と。 (やさしい やさしい やさしい) 彼はずっと自分自身を責めていた。 誰がなんと言おうと明らかな非が自分自身にあるのは、揺るぎない事実なのだ。どんな傷を負わされても、何を言われても、自分からは何も出来ない身分なのだ、と。すべては己の欲のせいで、肉体的にも精神的にも傷をつけることになったのだから。 二人分……その罪意識は深かった。素直に生きることは傷つくことだと知る。 (ごめんなさい) 「神田だけが悪いんじゃない。私にも責任がある」 無言の彼に彼女は声は小さくとも、はっきりと言い放った。そうなだめる彼女と目を合わせるが、彼は申し訳なさ、やるせない気持ちが高まり、視線をそらす。 「お願いだから、あなた一人だけで辛い気持ちを抱えないで」 そんな彼を見て彼女は少し片笑んだ。 (いま このひとたちをえらんでも こまらせるだけだって わかっていた) 「悔やむだけじゃ、この子が可哀想よ」 そう言って彼女はまだ膨らみのあらわれていない自身のお腹に視線を移す。自身の手を重ねる大きな掌(たなごころ)。それを映す彼女の瞳には柔らかく、優しい色で溢れていた。 「神田の手はいつも温かいね」 彼女はぽつりと呟いた。さきほどまで幼さが垣間見えたのが、嘘のような表情をしていた。 (それでも このひとたちが よかった) |