レツゴ文

□immortelle
3ページ/9ページ




「まあ、ジョーの言うとおり、今年一年の俺達をめでたく祝おうぜ。」
「そうだぜ、俺たちついに宇宙に行けるんだぜ。こんな嬉しいことあるかよ!」


なんせ夢が叶ったんだから! と意気揚揚に声が弾み、最高の祝い酒だよな! ハマーとミラーが嬉しそうに話す。その姿は幼少の頃と変わらなかった。
ただ変わったものと言えば、ハマーの髪が伸びたことと、ミラーのそばかすが綺麗になくなっていたことだった。
ブレットもそんな二人を見て思わず微笑む。そんな彼もどんな時でも外さなかったバイザーを、今は付けていなかった。


「そうだな。俺たちにとって、今年…いや、人生最大のビッグイベントだもんな。」








今年の秋、5人は宇宙飛行士就任式を迎えた。最年少記録だった。もう夢を掴んだも同然、そう言っても過言ではなかった。
アストロノーツ候補生のスタートラインから始まり、彼らはさまざまな訓練を経てきた。
訓練の一環として、宇宙科学の技術を駆使し、それを武器にしてミニ四駆で世界の舞台で駆けていたこともあった。これが他のどんな訓練よりも、彼らの心に刻みつけた。


「なんだかんだでさ、楽しかったな。本当に。」


俺ヘマばっかりやってたけど、とハマーが苦笑する。
俺も俺も、とつられてミラーが笑う。
今では笑い話だけど、あの時は真剣そのものだった。
まーまーあんなの気にすんなよ!!! とエッジがハマーの肩をバシバシ叩いた。
うん、その通りなのだが、もう少し言い方というものを……聞いてくれるはずがなかった。
(いかん、もう酔ってる…。)ブレットの心の声。


でも彼らはこのメンバーで集まると、必ずと言っていいほど、この思い出話に触れる。


「でもさ、本気で熱中できるものってなかなかないよね。バックブレーダーなかったら、今の私たちいなかった気がするもん。」


うんうん、と向い側の二人は頷いた。グラス片手にジョーがそっと呟いた言葉は正しかった。



彼らは無我夢中に追いかけていた。何もかも、目の前にあるすべてを。



「…まさかあんなおもちゃがな。」


思いふけるように吐いたブレットの言葉通り、ミニ四駆はただのおもちゃだった。
しかし、そのただの「おもちゃ」に中身を与えたのは、紛れもない彼らであった。
だが、ただ純粋に夢中になっていただけのこと。でもそれが走る意味をもたらしてくれた。
その培ってきた経験値が今の彼らに繋がる結果となった。愛機と共に走り続けた日々が、かけがえのない思い出となった。


「もうあれから10年も経っちゃうんだね…。」


長いような短いような。時間の流れはあっという間だ。ジョーがしみじみとグラスの中身を意味もなくかき混ぜ始める。
その心理は如何なものかと、ブレットはチラッと横目で見た。なんとなく気になるようだった。でもあえてこの場で問うことはしなかった。
 
 
 
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ