レツゴ文

□光の誓いが聴こえた日
5ページ/6ページ




勢いよく回っていた車輪がブレーキによって止められる。
どうやら目的地に着いたようだ。
二人は自転車から降りる。


シュミットがジョーの手をそっと取る。彼女はその手を借りて砂利の斜面を小股で歩く。
すぐ横で、間に合った、と安心したようにシュミットは声を漏らす。
そこは街を一望出来る僻地に似た場所だった。



二人はその場に立ち尽くす。
その間二人は言葉を発しなかった。
ただ目の前にある景色だけを見ていた。
そう長く時間が経たないで、空に変化が起きる。


「あっ、日の出……。」



先ほどまでの暗さが嘘のように、空が明らかになる。暗闇が完全になくなった。
そして瞬く間に、太陽の光が眩しさを覚えさせる。
その旭日の輝く東方の空、街がその光に照らされた。


目の前に広がるその光景は紛れもなく自分の街。当たり前のように見慣れて、何ら変わらないはずなのに、それを目の当たりにして、ジョーは胸を震わせた。



「これを見せたかったんだ。」



その隣でシュミットが一笑する。



「凄い…映画のワンシーンみたい。」
「……なあ、ジョー。」


名前を呼ばれて振り向く。
シュミットはその青い瞳を真っ直ぐに見つめる。
ジョーもそれに応えるように視線を合わせた。



「いつになるか、本当にいつになるかかわからないが、俺がジョーのもとに戻って来た時に………結婚してくれないか? 」



さほど長くない時間と距離を経て、その先に待っていたのは、陽光に包まれてのプロポーズだった。
本当に映画のようなワンシーンが成立した瞬間でもあった。


ジョーはこの上ない嬉しさを抱きながらも、不思議と落ち着いていた。


「うん、」


一呼吸置いて一度目を閉じ、彼方の空を見ながら言葉を紡ぐ。



「私も……シュミットとそうなったら良いな、って思ってた。」



その言葉に嘘の色なんてなかった。
それを聞いてシュミットは目の色を変える。


そんな二人に冷たく風が吹く。
少し風強いね、と肩に掛けていたジャケットをシュミットも一緒に、と勧めようとしたその時、ジョーの言葉を遮り、そのまま彼女を強く抱きしめる。
彼の腕の中で、きゃっ! と声を漏らした。





「ジョー大好きだ!!! 」





それは快哉を叫びにも似た告白だった。
降りかかる喜びの中でジョーは今度は本物の、彼の温もりに包まれた。



光の誓いが静かに小さく響き渡った。














*おわり* 


(→あとがき) 
 
 
 
 
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ