レツゴ文

□光の誓いが聴こえた日
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(こんなに背中、大きかったんだ…)


見た目の細身さから、少し意外に感じられた。
シュミットが颯爽とペダルを漕いでゆく中で、このポジションだからこそわかる発見。
さらにジョーは少し目線を上に向けると、深い栗色をした髪は風になびかれていた。
当然顔は見えない。後ろ姿だけ。
でも何もかもが新鮮に思えた。
するとシュミットがポツリと口を開いた。



「あそこで何度も心の中で叫んだんだ……お前の名前を。
そしたら窓からお前がこっちを見ていたんだ。
本当に驚いた…。」



二人分の重さも難無く漕ぎながら、今起こっている事実を噛みしめるように言うのだった。



「私も…窓の外にシュミットがいたなんてビックリしたわ。」



ジョーが起きた時に自身の中によぎった何かは、気のせいなんかではなかった。
はっきりとした感覚ではなかったものの、“呼ばれていた”というのは確かな感じがした。



「こんな夢みたいなこと……本の読みすぎかな。」



とジョーは独り言のように言い、小さく笑う。
こんなファンタジーどこにもないよね、と。
するとシュミットは、いや、とすかさず食いついた。



「少なくとも、俺は信じたくなった……きっと俺たち繋がっている、って。」




ジョーの瞳の奥の輝きが一瞬揺らいだ。




いつも言葉にトゲの多い彼の言葉とは信じられなかった。
しかし、自信に溢れているかのようなその言葉に恥や躊躇いの色は感じられなかった。
彼のありのままの言葉だった。


ジョーはその目を閉じ、額を彼の背中にそっと当てながら、私も、と小さく呟いた。少しばかり照れが含まれていた。
彼の背中から確かな彼の体温が伝わる。
それはジャケットに残っていた温もりと同じものだった。



「それに………お、重くないから……あ、安心しろ! 」


もごもごとした物言いだったけれど、ジョーにその気持ちは伝わった。


「うん、ありがとう。」
「あと………。」
「?」


さっき力強い言葉を放ったばかりの彼が言い淀んだ。
後ろで不思議そうにその続きを待つ。







「………綺麗だな、髪下ろしたのも。」





その言葉にジョーは大きく目を開いた。



(あっ、そういえば…)



ジョーは髪も結わかずに降ろしたままで家を出てきていた。
シュミットが団地の入口でのあの時、どこかぎこちない態度だったのは、いつも見るのはポニーテール姿で、髪を下ろした状態の彼女を見るのは初めてで、どぎまぎしていたからだった。



ジョーは無言のまま、返事を返さなかった。
後ろを向けないシュミットには見えないが頬を赤らめて、でも柔らかい笑顔を浮かべて。
それはきっと、前で漕ぐ彼も一緒で。



お互いに顔を見ずの会話だけれど、寒さなんて気にならない暖かさが二人にはあった。






雲の切れ間から微かに光が見えてきた。
ジョーは彼の広い背中に身をそっと委ねた。
そして耳をすませば、しっかりと刻まれる彼の鼓動が聞こえた。
 
 
 
 
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