レツゴ文
□光の誓いが聴こえた日
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「シュミット!」
紛れもなく彼だった。
自転車にまたがり、この団地の前に立っていた。
ジョーは近所迷惑を考え、「今そっちに行く」と言ってそのままの格好で家を出た。
団地の階段を一段ずつ下りながら、ジョーの中で様々な感情が飛び交う。
驚き、嬉しさ、そして何が起こっても良いという覚悟。
彼の元へ向かう足取りは軽いようで、踏みしめた一歩は重かった。
団地の入口に辿り着く。
空が少しずつ明るくなり始めていた。
「シュミット!」
小走りで駆け寄る。吐いた息が白かった。
「まさか気づいてくれるなんて思わなかった。」
とシュミットは驚きつつ、どこか安堵の表情を浮かべていた。
「どうしてシュミットがこんな所に…。」
投げ掛けたい質問はたくさんあった。
でもいっぺんに問うことは出来なくて。
「迎えに来た。」
一言。サラリと言い放つものだから、ジョーは返す言葉がすぐに出てこなかった。
「お前に連れていきたい場所があるんだ。」
時間がない、そう言う彼はジョーに荷台に乗るように勧めた。
「感謝しろよ。重い奴を乗せて漕ぐ俺に。」
こんな時でもイヤミを言う彼にムッ、となったジョーは反抗しようとした瞬間、シュミットは自分が来ていたジャケットを脱ぎ、ほら、と言ってジョーに差し出した。
「そんな薄着じゃ寒いだろ…これ着ろ。」
「あっ…ありがとう…。」
吐き出そうとした罵りの言葉を引っ込めて、顔をほころばせてお礼を言った。
それに対してシュミットの顔がどこか赤かった。
早く乗れよ、とは首をくるっと回してジョーに顔を合わせないで急かすように言った。
まるで今の自分の表情を見られたくないかのように。
ジョーは深追いはせずにうん、とだけ頷いて、手渡されたジャケットを肩に掛け、荷台に乗る。
そしてシュミットはペダルを踏み込み、二人を乗せた自転車は動き始めた。