レツゴ文
□遠くて近きもの
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「俺が何を言いたいか、わかる? 」
グッと近づいた距離、
バイザーを外す行為、
眼差しの奥にあるもの………それは暗示しているのだと、すぐにわかった。
“視線の先に私がいること”を。
でも彼の言いたいこと、正直わからなかった。
「………今までに、俺に対して壁を作って接してくる者を何人も見てきた。」
ブレットは静かに独白のような口調で言い出した。
「そいつらって、俺のことを買い被った見方をしてくるんだよな。
何も知らないのに、上辺な言葉をかけてくる……良い気分はしなかった。
そこに信頼とか、繋がりとか、欠如しているような気がしてならなかった。」
と思い返すように言う彼の姿は寂しそうに見えた。
彼の過去は華やかなように見えて、それは決して楽な一本道ではなかったことを知っていた。
でもそれがあったからこそ、そしてそれが今の彼がいる所以であるのは確かだった。
「今の言葉を聞いて、ジョーがそいつらと重なったっていうのが正直、俺の本音。」
つまり、人の内面を知らないでレッテルを貼る、
一方通行でこの先、道と道が交わることのなさそうな………そんな空虚な、人間関係そのものを指していた。
だけど、とブレットは
「ジョーは違う、ってちゃんと信じているけどな………少なくとも、俺はジョーのことを気の置けない相手だって思っているし、他の奴らよりも特別だって、自覚している。
それはきっと、ジョーも一緒だって………」
ここで途切れた。
ハッ、と挟んで言葉を続ける。
「俺だけが妄信していたみたいで………何だかカッコ悪いな。」
と、苦笑いをした。
見たくない表情だった。
そして一つ一つの言葉が、深く胸に届いたような気がした。
どれも真っ直ぐに私に向けられたもので、嘘なんかじゃないって。
私こそ自惚れかもしれないけど………お互いを想う気持ちの強さが同じだったことに嬉しさを覚えた。
「そんなこと、ない…!」
奮い立つように出てきた言葉、同じように嘘の気持ちなんかなくて。
「私だって、同じ。
気持ちは、ブレットと………一緒。」
落胆させてしまって申し訳ない気持ちを込めて、途切れ途切れだけど、
ちゃんと届いているかわからないけど、
精一杯の気持ちを告げた。
― 本当に?
― うん。
― ……そうか。
そして彼は嬌笑にも似た笑いを浮かべた。
彼の表情を見る度に、帯びた熱は上がる一方で、下がることはなかった。
気付いたら肩にあった手は腰に移動していて、腕を回されしっかりと固定されていた。
そして彼の腕力によってさらに引き寄せられ、その分隙間は埋まって、より彼に密着する形になった。
つまり彼との“距離”は無に等しかった。
私は無言ながらも、心臓は凄い勢いでバクバクして、頬が赤らむのも遅くはなかった。
その瞬間………本当に自然な流れだった。
そっと唇が重なった。
距離が“0”になる瞬間。
私は思わず、瞑る目に力が入る。
しかし、モーションはゆっくりに見えて、あっという間なものだった。
そして、ゆっくりと離れていく。
閉じていた目を開き、お互いの視線がぶつかる。
その瞳は本当に色っぽくて、恥ずかしくても、視線を外せられないものだった。
「拒まなかった、ってことは……嘘じゃないんだよな? 」
「………うん////」
照れる気持ちを首を縦に振る仕草に込めた。
すると、じゃあもう一回、と空いた片方の手で頭をグイッ引き寄せ、また私に口付けを落とす。
二回目はさっきより長く長く塞がれる。
だんだんと呼吸が足りなくなってきて、息苦しさを感じる。
それを察してか、ブレットは名残惜しそうに口付けをほどく。
その時の彼の瞳はこれ以上にないくらい艶かしくて、私は一層顔に熱を感じた。
心臓がいくつあっても足りない。
それに対してブレットは余裕そうに、笑みを浮かべる。
「もっと鍛えなきゃ駄目だな。」
すべてにおいて彼の方が一枚上手だった。
………私は彼の成すがままだった。
「………なんか私、やられ放しなんですけど。」
「ん? 」
彼に腕を回されたまま、赤ら顔で訴える。
気付いたら、ジリジリと攻められて、不意打ちにキスされる始末。しかも二回。すべてが巧妙過ぎる。
「俺はジョーに対する気持ちを示しただけだぜ? 」
と、すまし顔で返されて私から返す言葉がない。
その代わりに頬がまた赤くなる。
そんな私をじっと見つめて、ブレットは思いついたように呟いた。
「………もしかしたら、錯覚を起こしているのかもな。」
錯覚………?
頬が紅潮したままの顔で、不思議そうに見つめた。