レツゴ文
□行き合いの空
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(親父が言いたかったことってこういう事だったのか…)
小さかった頃のちっぽけな感動はこんなにも切ないものだったのか
そう考えると、残酷だとすら思えてくる。
けれど彼はいや、そんなことはない、と最初から答えは出していた。
小さい時に感じたあの気持ちは嘘じゃないと。
この空の青さはそんな悲しいものじゃないはずだと。
「これは飽くまで俺の意見だけどな…」
彼女は「うん」と本当に小さく、頷いた。
「そんな別れだ何だ、って…………親父もお前もそんなに悲観的になる必要ないと思うんだ。」
深く考え過ぎだ、と言った途端、ジョーは眉を上げて彼を真っ直ぐに見つめた。いや、睨み付けた、と言った方が適切かもしれない。
「好きな人と別れることを悲しんで何が悪いのよ!」
声を荒げたジョー。しかし表情は裏腹で、瞳にはうっすら涙が浮かんでいた。
リョウは多少たじろぎながらもだから、とゆっくり言葉を紡いだ。
「そんな気持ちを飛躍することないだろう。」
「だって!」
食らいつくように反論の言葉を述べようとするジョーだった。
けれど、それ以上言葉は出てこなかった。
リョウは彼女の目をしっかり見定めて、悟すように言うのだった。
「…俺がいつ別れを告げた?」
「!」
その言葉を聞いた瞬間、ジョーの目の輝きが変わった。
その青い瞳は大きく見開いていた。
「そんな最悪なことばかり考えるなって。」
と、優しくジョーの頭を撫でた。
「……でも、」
と口籠って、それでも相変わらず悲しそうな表情を帯びた。
そんな彼女に対してさらに言い足すのだった。
「少し考えを変えてみろ。」
大丈夫だって、
四季は必ず訪れる。
この流れは確かに逆らえない。
だからこそ、この中途半端な季節だって、また巡ってくる。
夏は何度だって秋に向かう。
そしたら………
― また“会える”じゃないか
「なっ?」
「………うん」
するとジョーの瞳から、ついに一筋の涙が流れた。
その言葉はいかに強く彼女の心に届いたか、聞かなくてもわかった。
リョウはそんな彼女に向かって微笑んだ。
「だから余計なこと、考えるなって。」
「うん……。」
でも簡単に会えなくなるね、とぽつりと呟くのだった。
確かにその通りで、そう簡単に会える距離じゃない。
それだけ国境の壁は大きい。
国境だけじゃない障害も待ち構えている。
それでもリョウはこう言い続ける。
「なら、またこの季節に会えばいい。」
「……えっ?」
そうしたら“別れ”の空にならなくて済むじゃないか、とまた空を見上げた。
「やっぱり俺は……」
この引き合うかのような吹く風を感じられるこの季節が好きなんだ、と独り言のように呟いたその言葉。
隣できょとんとしていたジョーにも、それはしっかり届いていた。
そしたら彼女は目を細めてそうだね、と彼女の表情から笑みがこぼれた。
リョウもそれにつられる。
「そう考えたら好きになれるだろ?」
“この季節を”
いや、と長いポニーテールを揺らして
「何言ってるのよ。寒かったり暑かったりして嫌よ!」
ときっぱり言い切ったのだった。
「元も子もないことを言うのな。」
「…………なんてね!」
と呆れたような声を漏らすリョウに、ジョーは悪戯に微笑んだ。