レツゴ文

□遠くて近きもの
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外は冷たい風が吹いていた。
極力外出は避けたい、そんな休日のことだった。









コンコン、とドアをノックする。



「ブレットー? 私だけど入っていい? 」
「ん? …ジョーか。ああ、構わないが。」
「お邪魔しまーす! 」



私はブレットの部屋のドアを開けた。
入ると、彼はソファーの方に座っていた。
いつもは机に向かっている姿を見かけるので、何だか新鮮だった。
その誰もいない机の上には資料やら本やらが積み重ねて置いてあった。


ソファーに向かうと……場所が変わってもやる事は変わらなくて、ソファーの前にあるテーブルには数冊の本があり、ブレットの手にあるのもやはり本だった。



「隣、座っても良い? 」
「ああ、良いよ。」



よくバイザーしたまま本を読めるなあ、なんて思いながら、彼の隣に腰をかけた。
すると、ブレットは読んでいた本を閉じようしたので「あっ良いよ! 読んでて! 」と私はすかさず止めた。


「良いのか? お前がつまらない思いするぞ? 」
「気にしなくて良いわ。あっ邪魔だったら言ってね。」
「いや、そんなことはないけど。」
「それなら良かった。」


特に用事があるわけじゃないのだけど、何となく傍にいたくなっただけだから……なんて恥ずかしくて言えなかった。
でも彼のささやかな心遣いが本当に嬉しくて。
それだけで十分にさえ思えた。
 
 
 
「何の本を読んでるの? 」
「これは……リーマン予想に対して、ある学者の意見、だな。」



リーマン予想……ああ、そういえば前にブレットから聞いたような。
20世紀最大の問題とされていてまだ誰も解けていないんだっけ。


「リーマン予想か。ブレットが数学関係の本を読むなんて珍しいね。」
「そうか? 」
「だっていつも宇宙学とか物理学とか読んでない? 」
「んー言われてみれば。」


ジョーの言う通りかもな、と悠然としたまま言うのだった。


「この学者の意見に対する批判が結構多いんだが、俺は斬新で面白いと思うんだ。人柄が現れている部分が、なかなか感慨深い。」
「へぇ……。」


感心したような声を漏らすと、ジョーも読んでみる? と振られたのでじゃあ読み終わったら貸して、と告げるとOK、と返ってきた。
 
 
 
 
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