story

□振り回しダーリン
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「誕生日おめでとう刹那!」
そう言われて渡されたのは色とりどりの花束だった。



「おめでとう、刹那」
「めでたいんだし一杯飲みましょっ」
「刹那はまだ未成年です!」
「スメラギさん、刹那をダシにお酒を飲むの禁止ですよ」
「いいじゃない、少しくらい」
「駄目です!」
笑い声が聞こえてくる中、この祝いの主役の刹那自身は一人機嫌が悪そうだった。
「刹那、ロックオンが居ない分まで祝ってあげるから、」
「アレルヤ!」
クリスティナが喋りかけていたアレルヤの口を塞ぐ。
機嫌が悪いのはアレルヤが今言ったその事だった。
一番に祝ってくれそうな恋人のロックオンは今現在トレミーにいなかった。
「仕方ないのよ、地上待機組なんだから」
ワインをぐびぐび飲みながらスメラギが言う。
「だからロックオンも刹那を祝いたくないってわけじゃなくてね、ただ任務なだけで、」
「わかっている」
「…そう、ならいいわ」
そう言って再びスメラギはアレルヤに次のワインを持ってくるように指示する。
「刹那、大丈夫?」
フェルトが声をかける。
「ああ。大丈夫だ。…花、ありがとう」
小さく告げるとフェルトは微かに笑みを溢した。

「早くケーキ切りましょうよ」
包丁を構えたリヒティがケーキの前で待機していた。
「俺は別に構わないが」
俺がそう言うとリヒティが「やった」と言いゆっくりとケーキに包丁を向けた。
「ちょっとリヒティ!ケーキ食べたいだけでしょっ」
クリスティナがリヒティに駆け寄るが、もう既にケーキは切り分けられていた。
「もうっ、ムード台無しじゃない」
「もともとそんな良い雰囲気ってわけでも…それに刹那は良いって言ってたじゃないっすか」
「スメラギさぁん」
クリスティナが何か言ってやって下さいと目線を送るが、
「あら、刹那が許可したなら良いんじゃない?」と軽く返した。
「とりあえず切ったんだしケーキ食べましょ」
スメラギさんの指示で綺麗に切られたケーキが皆に回っていく。
「はい、刹那には一番大きい苺のあげるっ」
そう言ってクリスティナが俺に皿を渡す。
「俺は別に大きくなくても、」
「いいのっ!」
クリスティナがにっこり笑う。
結局俺は一番大きな苺が乗ったケーキを食べた。






「…はぁ」
一人部屋に戻ったが何もすることがない。
任務で地上待機だからロックオンがいつものように部屋に押し掛けてくるなんてことはなく、俺はただ暇を持て余していた。
「恋人のくせに…」
連絡一つくらいならよこせるだろう。
なのに一つもこない。
「…アホロック」
一番に言われたかったのに。
なんだか寂しくなり、無意識のうちにエクシアがいる格納庫へ足を向けていた。



格納庫についてすぐにエクシアの元へ行く。
エクシアを見上げたらあまりの高さにふと、ロックオンと自分の距離はこれくらいなのかと思えた。
顔は見えるのに、すぐ傍に居るはずなのに手が届かない。
俺はエクシアに向かって虚しく手を伸ばした。
「…遠い」

暫くして俺は手を握りしめた。
「まさかここまでロックオンに惹かれるなんて…」
思っても見なかった。
今こんなにも寂しいなんて。
寂しさを紛らわせる為にエクシアの元へ来たなんて、少しだけ悔しかった。
それでも結局今の俺にはエクシアしかなかった。

俺がエクシアに乗り込もうとしたその時だった。
急に何かにコックピットの中へと引っ張られた。
動けないようしっかりと腰を固定される。
一体誰が何をしたんだと振り返ろうとした瞬間、聞きなれた声が聞こえてきた。
「ただいま刹那」
そこにはにっこりと笑っているロックオンがいた。
「…っ!?任務は…」
驚いて固まっている俺を見てロックオンはくすくすと笑いながら答える。
「終わったよ。はい、これ」
そう言って渡されたのは綺麗な赤色のような水晶のついたブレスレットだった。
「プレゼント。刹那の瞳の色みたいで綺麗だろ?」
俺は無言で頷く。
光の当たり具合によってキラキラと輝きが変わる。
あまりの美しさに俺は食い入るように見ていた。
「気に入ってくれたなら良かった」
ロックオンが微笑む。
「あともう一つあるんだけど、ちょっと目つむってくれる?」
「…?ああ」
言われた通り目を閉じた。
すると手に何か握らせられた。
「もう良いよ」
目を開けて手のひらをひらくと、そこには小さく輝く指輪があった。
「ベタだけど、な」
「ロック…」
「いつかニールとソランに戻れたら、ニールとしてソランにその指輪をはめさせてくれ」
ニールとソランとして…、つまり世界から戦争が消えCBも解散して普通の生活に戻れるようになったら。
「…俺でいいのか?」
きっと普通の日常を過ごすニールには俺なんかよりもずっと良い人が見つかるはずだ。
「…バカ、」
ロックオンが髪をくしゃくしゃとなでる。
「俺はずっと刹那だけ好きだよ」
真っ直ぐ瞳を見つめられ、自分でも顔が熱くなるのがわかった。
「………ロックが俺で良いなら、俺もそれで…」
「ありがとう」
そう言ったロックオンに力強く抱き締められた。
「…バカはお前だ、礼は俺が言う側だろう」
そう言ってロックオンの背中に手をまわす。
「一番に言いたかった、刹那。…誕生日おめでとう、ソラン」
「ありがとう…、一番に言ってくれて、ニール…」




今だけは二人、枷を外して。







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