story

□空の花
1ページ/2ページ


「刹那、今度地上に行く時の夜空いてるか?」
部屋を訪ねてきたロックオンは突然そう聞いてきた。
「ああ。一応空いているが」
そう返すとよし、と呟き抱き着いてきた。
「じゃあその日は予定ないままにしといてよ」
「…なんでだ?」
自分の予定なのだから自分の勝手だろう、といいたげな顔をする刹那にロックオンが苦笑する。
「まぁたまにはいいじゃないか?恋人らしくさ」
ロックオンがニヤニヤする。
「…暑苦しい、放れろ」
「ほら、そういうこと言わない!スキンシップ、スキンシップ」
じたばたする刹那の髪をわしゃわしゃと撫で、思いっきり抱き寄せる。
「…たまにはいいだろ?」
たまには。
そう言われると抵抗できなくなる。
刹那はロックオンのされるがまま暫く無言が続いた。

少したって遠慮がちなノックが聞こえた。
「刹那、僕だけど…ロックオンいる?」
アレルヤだった。
入っていいと言った直後自分たちの状態に気付いた。
「刹那、ちょっとロックオンを―……」
そこまで言って一旦止まった。
アレルヤが顔を少し赤らめた。
「あ、あの…お邪魔だったかな…」
完全に誤解しているようだった。
「いや、ちょうどいい、この馬鹿を―…」
“この馬鹿をさっさと連れてけ”
そう言おうと思ったのだが。
「お、アレルヤ早いな。じゃー行くかっ」
ロックオンがアレルヤに笑いかけさっさと放れていった。
「じゃあな、刹那。また明日」
にこ、っと一瞬笑ってアレルヤと急いで何処かへいってしまった。
「なんなんだ、あいつ…」
なんだかよくわからないが気にくわなかった。





翌日。
徹夜してガンプラを作っていたせいで、いつもより少し遅めに起きた。
まだ頭が完全に起きていないのか、ぼんやりする。
とりあえずお腹が空いたからご飯でも食べようと部屋から出る。
「刹那っ!」
出た瞬間後ろから声を掛けられた。
「どうしたんだ?クリス」
珍しい人が話しかけてきた。
「さっきから探してるんだけど、アレルヤ見なかった?」
「見ていない」
返答にクリスは溜め息をつく。
「最近なんかアレルヤとロックオンってずっと一緒に居るじゃない?おかげでつかまらなくって」
「ずっと一緒?」
「うん、ここ最近一緒に見かけるもの。何かやってるのかな」
それだけ言って邪魔してごめんね、とクリスは去っていった。

(そういえば昨日も二人で居た…)
何かやっているのか?
よくわからないが嫌な気分になった。



ミーティングルームの前を通ると、よく知っている声が聞こえた。
「少しくらい良いじゃねぇか…大丈夫だろ。アレルヤだって本当はやりたいんだろ?」
「よ、良くないよ!怒られるよロックオン!
…そりゃあ…やりたいけど……」
ロックオンとアレルヤの声だった。
聞こえてくる何やら怪しげな会話。
(ロックとアレルヤは一体何をしたいって?)
ただ純粋にそう思い、聞いてみようとドアノブを回す。
「ロックオン」
「せ、刹那!?」
一言掛けたらロックオンが慌てて名前を呼ぶ。
「ど、どうしたの?刹那」
アレルヤも何処か焦っているように見える。
「いや、特に大したことじゃないんだが…」
そう言うと二人の顔がホッとした。
「とりあえず僕は部屋に戻るよ、じゃあね刹那。ロックオンはまた後で」
そう言ってそそくさと部屋から出ていった。
「…」
(ロックオンは、また後で?)
ということは待ち合わせか何かしているのか?
そこまで考えてハッとなった。

さっきの会話に今の慌てぶり、もしかしたら
(浮気…)
嫌な言葉が頭に浮かんだ。
まさか、ロックオンが?
アレルヤと浮気…?
(…ありえない)
その答えが愛されているという自信からきたのか、ただの強がりなのかはよくわからなかった。
(ロックオンは俺の恋人だ。それにロックはそんなことするような奴じゃない)
結論を整理してからロックオンに尋ねる。
「アレルヤと、何を話していたんだ?」
「ん、ちょっとな」
苦笑いで流された。
「それより刹那、今日はもう早めに寝ろよ?またガンプラ作って遅くに寝てたろ
?あんま夜更かしすると背伸びないからな」
ロックオンは再びいつもの笑みを浮かべた。
「…余計なお世話だ」
「せっちゃんの為なのになぁ。…まぁ俺としては、今の身長のが抱きやすくて丁度良いんだけどな?」
ムッと眉を寄せると可愛い!とか言って抱きついてくる。
「離せバカロック…」
言ってはみたものの抵抗する気はなく、それをわかっていたのかロックオンは黙って温もりを感じていた。
「せつな、あったかい」
刹那は無言でロックオンに抱かれたまま。
「こうゆうの子供体温っていうのか?」
言い終わると同時にロックオンは素敵なパンチを刹那からお見舞いされた。





夜。
今日は早く寝ろよ、とロックオンに言われそうしようとはしたものの、全く睡魔が襲ってこない。
どうしたもんかと思いつつ、気がついたらロックオンの部屋に向かっていた。
ホットミルクでも作ってもらおう。
それで少しは眠気がくるかもしれない。
「…まだ起きてるよな…」
ロックオンの部屋の前で一旦止まる。
「いつも遅いから…大丈夫か」
何も考えずに中の光景を見た刹那は固まった。
「ロック…アレルヤ…?」
「「刹那!?」」
ドアの前で固まっている刹那に驚く二人。
ベッドの上に居る二人。
ロックオンはアレルヤの服を脱がそうとしている最中だった。
流れる沈黙の中、ロックオンが必死に言葉を出した。
「…ど、どうした刹那、こんな時間に…」
顔は真っ青で滝汗を流している。
「ロックオンこそ…何やってるんだ…」
その一言で空気が凍りつく。
「うわき…」
「え?」
「浮気、してたのか?」
「な…っ!?」
考えたく無かったし、本気で考えもしなかった。
ロックは自分を好きで、自分もロックを好きなんだと思っていた。
けれど今目の前に突きつけられた現実。
その悲しい現実を否定する言葉が刹那には無かった。
「ち、ち、違うって刹那!誤解だっ!」
刹那にのびかけたロックオン手を払った。
「俺に触れるな…っ!」
アレルヤはその光景にわたわたしている。
「言い訳なんて、聞きたくもない…!」
それだけ言って部屋を飛び出した。
走りながら必死に頭の中でさっきの記憶を消そうとする。
あんなの見たくなかった。
信じたくなかった。
俺はロックオンが好きだったのに。
ただ悲しくて、泣きたくて、一人になれる場所を探した。





刹那が出ていっても動かないまま部屋に残っていた二人。
「ど…どうするんですか、ロックオンが無理矢理こんなことするから刹那…」
アレルヤが相変わらずわたわたし続けている。
「わかってるって!」
溜め息をついた後「後処理宜しく」と言ってロックオンは刹那を追いかけて行った。
そんなロックオンを見送るアレルヤ。
「…ハァ…これがティエリアじゃなくて良かったよ…」
取り残され、仕方なく部屋を片付けながらポツリと呟いた。





「刹那!」
トレミーの中をどんなに探してもいない。
最後に行き着いたのがエクシアのいる格納庫だった。
…本当は最初から此処に居るんじゃないかと気づいてはいたのだが、さっきの出来事で罪悪感があって真っ先に此処に足を運べなかった。
「此処に居るんだろ…刹那?」
格納庫はシンと静まり返っていて何も返ってこない。
再び溜め息をついてロックオンはエクシアに近づいていく。
「…ったく、お前は昔から変わんないな。何かあったらいっつも此処に来る」
エクシアの中、一人でうずくまっていた刹那。
「…うるさい」
顔は見せないまま。
「最初こうやって俺が来た時は『エクシアに触るな!』って蹴落とされたな。」
「……」
「今はいいの?」
「……ロックは、」
顔をふせたまま口を開いた。
「ロックは、好きじゃなかったのか…?…俺の、こと…」
微かに声が震えている。
「俺は、俺は…ロックが、好きだったのに…。ロックは好きじゃないのか?」
最初は一人で勝手な行動して他人との関わりを極端に避けていた。
そんな刹那が今震えながら泣いている。
「一人でも、何とも無かったのに……、今は…ロックが居ないと、俺…」
ああ、俺はこんなに刹那に愛されていて、こんなにも刹那の中を自分で満たしてしまったんだと思った。
「刹那」
ロックオンの声にビクッと体を強張らせた。
「…俺は、刹那が好きだよ」
正直に言う、嘘偽りのない自分の気持ち。
「でもロックはアレルヤと…」
「だから誤解なんだって」
ロックオンは真実を話始めた。



「俺がこの前刹那の部屋に行った時さ、今度の地上に行く日の予定聞いただろ?

刹那がコクン、と頷く。
「あの日さ…刹那んちから見える場所でちょうど花火大会があるんだよ」
「……花火大会?」
刹那がクエスチョンマークを頭の周りに浮かべる。
「やっぱ知らなかったか…。
花火大会ってのはな、まぁ夏のイベントというか……。口で言うより見た方が早いんだが…」
説明に困ったロックオンがうーんと唸る。
「…まぁいい。で、折角の花火大会ってことで俺とアレルヤで浴衣を用意してたんだよ」
「ゆかた…」
「それもまた後でな。
…浴衣の着付けをさっきやろうとしてた時に刹那が来たんだよ」
ロックオンは、だから浮気なんてしてないっての!と言った。
「…そう、なの…か?」
「そうなの!」
「…俺は、俺がロックに捨てられたんだと…っ」
言い終わる前にロックに抱き締められた。
「お前が俺に捨てられると思うか?」
優しくそう言うと、刹那は再び涙を流した。
「…ありえないな」
「だろ?」
自分を優しく優しく抱いてくれるこの温もりを離してなるものかと、刹那もロッ
クオンを抱き締める。
「…ごめんな、変な誤解させて…こんな泣かせちまって」
刹那の頭をそっと撫でる。
「……別に俺は泣いてない」
明らかな嘘をついた刹那にくすりと笑った。

「好きだよ、刹那。
刹那だけ、ずっと…」

「俺も…ロックが好きだ、ずっと、ずっと…」


静かに、そっと抱きしめて。






後日。
刹那の家のベランダで花火を見るために集まったマイスター達。
「ロックオン、これは…」
「これが浴衣だよ。ほら、この前言ってたやつ。綺麗だろ?」
そう言われた浴衣は、ほのかに赤いグラデーションのかかった生地のあちらこちらに花が広がっている。
「ああ…」
「似合ってるよ、刹那」
そう言って刹那に軽いキスをする。
「んっ…ロックオ…」
「人前でイチャイチャするのはやめて頂きたい、ロックオン・ストラトス」
イチャつく二人を後ろで傍観していたティエリアがそう言い放った。
「いいじゃねぇか、別に」
「よくありません。…大体、俺と刹那が着ているこの浴衣は女の…」
「ティエリア、ひょっとしてキスしたことないのか?」
「は?」
ロックオンが急にティエリアの話を遮った。
「あー、なっるほどー。だからティエリアは俺と刹那がキスしたの羨ましかった
んだな?」
ロックオンがニヤニヤする。
「な、な…っ!そんな訳あるわけないでしょう!?」
「だったらもしかして照れちゃった?目の前でキスされて」
「…………っ!」
完全にロックオンの挑発で火のついてしまったティエリア。
「や、やめようよ二人とも…今日は折角の花火大会………んんっ!?」
アレルヤの唇はティエリアによって塞がれた。
「ん…っ!
…どうだロックオン・ストラトス!キスくらいどうってことな…」
「綺麗だなー刹那〜」
「ああ、ガンダムだ」
ロックオンは刹那とすっかり花火に見いっていた。
「……」
「ティエリア、折角の日なんだからさ、今日は細かいことは忘れて楽しもうよ?」
「……」
「僕この花火、ティエリアと一緒に見るの楽しみだったんだけど…」
「…俺も、」
「?」
「……綺麗だな」
「そうだね、ティエリア」





夜空に舞う花は、恋人たちに甘い時間を咲かせて。









・次ページあとがき
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ