Shortstory

□もどかしい距離
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あまりにも幸せすぎて、時に恋は盲目になる。

それは良いことなのか、それとも…


















『もどかしい距離』








西日が地平線を這うように揺れる。沈まない太陽が橙に色を変え、宵の訪れを告げる。

ホルシードへやってきて1ヵ月。だいぶ土地にも馴染み、自分の心にも余裕が出始めている。

最初の頃は慣れない気候と熱帯夜、そして若干の食文化の違いに悩まされたものだが、慣れというのは恐ろしい。晃は1ヶ月で自分でもビックリするくらいこの土地が大好きになっていた。


しかし、いくらレナートが自分の事を良く紹介してくれても、胸にモヤモヤが残って仕方なかった。


―男と男―


この関係だけはどこに行っても覆る事はない。

レナートは気にしないでいいと言ってくれるが…自分だって本当なら一目を気にせず手を繋ぎたい。腕を組んで甘えたい。指と指を絡めて、少し高い肩に寄りかかって至近距離でたわいもない話をしながら歩きたい。


普通の恋愛のように、それができるならどれだけ幸せだろう…




不器用な自分の恋愛観は、真綿のように首を締め付ける。

目の前の逞しい腕に縋ってしまえば早いものを…一歩踏み出せない臆病な自分がいる。


自ら一歩下がった定位置の、もどかしいこの距離間はいったいいつになったら埋まるのだろうか?

彼に気づいて欲しい訳じゃない。


だから自分から歩み寄り、その手を握ることができる未来のために、今は少しでもレナートに釣り合うような大人になりたい。

多少背伸びしてもいいかな…?自分だってレナートを支えてやりたいんだ。





「お〜い晃ぁ!!行くぞー」

遠くでレナートが笑顔で手を振っている。

「今行くっ!!」


大丈夫…きっとこの距離は少しずつ縮まっていると思う。


自分も笑顔を向けるとレナートの元へと走っていった。










→アトガキ
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