hiyori

□アネモネ
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「曾良くーん」
「何ですか」
「今日は何の日でしょう!」
「知りません。」
「す…少しくらい考えてよっ」
「……考えました、わかりません。」
「短いわいっ!このアホ弟子!アホ男!」
「芭蕉さん、そんなに断罪をくらいたいんですか?」
「…ひえー…曾良くんのバカー!」


嵐のように現れて嵐のように逃げていった師匠、松尾芭蕉を見ながら曾良はため息をついた

今日が何の日かなど知らない。芭蕉の誕生日とも何かの記念日とも聞いたことがない。
一人で盛り上がって一人で怒って、全く芭蕉さんは意味が分からない。と、曾良は心の内で悪態を吐いた。




***

「コンニーチワ!アナタ格好良イネ、モテモテ!」

芭蕉を探しに街に来たは良いが、がたいの良い変な異国人に声をかけられた。
曾良は無視を決め込んだ。

「ワタシ、愛ノ宣教師デース!イケメンナノニ1人ボッチ?今日ハ愛ヲ伝エアウ日、バレンタインデーヨ!」

…。

まさか。
芭蕉はこの事を言っていたのだろうか。


ああ見えてもあの人は俳聖と呼ばれるくらい有名で、人望も厚く顔も広い。
どこかの誰かにこの異国かぶれの風習を聴いていたのか。

あまり確信は持てないが、おそらく先ほど芭蕉が言っていたのはその『ばれんたいんでい』のことだろう。

「アナタ格好良イカラ特別、コレアゲルネ」
「…」
「ソレ、愛スル人ニ渡ストイイネ!アデュー☆」


そう言って渡された物は赤くて大きめの花。
あかるい芭蕉に似合いそうな花だった



***
「あ、曾良くーん、お団子美味しいよ」

こっちこっち、と笑顔で手招きするのは当然の如く芭蕉で。
芭蕉は1人、茶屋で団子を頬張っていた
先ほどのことは綺麗サッパリ忘れているようだ。

「…あれ、曾良くんその花、紅花翁草じゃない?」
「…そうなんですか、知りませんでした」
「えええ!じゃあどうして持ってるの!」
「貰いました。僕いらないのであげますよ」
「………え、いいの?」


そういった芭蕉の表情は意外にも嬉しそうで、曾良も自然と笑みがこぼれる。


「曾良くんから今日この花を貰えた事、とてもうれしいよ!だって紅花翁草だもん!」
「紅花翁草だから、ですか?」

「うん、それの花言葉、知ってる?」
「いいえ」

「あなたを愛します…だって!」



次の瞬間芭蕉に有無を言わせる間も持たせず、断罪チョップを喰らわせた。


この僕をときめかせた罰ですよ。




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