戯言仮4

□団扇の
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「あ、」
「どーしたんさ」
「いや」
援交かぁ。




鈴木は運転席に座る新藤に話し掛けた。近頃、家を飛び出し、援助交際で毎日を送っている女性の殺人が立て続けに起こっている。その事についてであった。あれは、本庁が陣取ってるし、管轄も違うからあんまり情報も入って来ませんけどね。

「わしらはわしらで被害者のお宅に話聞かんといけんし」
「そうなんですけど。ちょっと気になって」

調度、車はある高等学校の脇道を通った。下校の時間なのか、沢山の学生で歩行者用のガードレールの内側はごった返している。何故か総じて女子のスカートは短く、男子のネクタイは緩い。
「まぁ、若いですね」
「まだ大丈夫。わしらも大丈夫」
「何がですか。ナンパしたら怒られますよ」
「わかってますー。棘が刺さるように痛いです。さっさと通過してやる!」
「スピード注意」
「うっさい!」




新藤が被害者の実家のインターフォンを押す。機械の中からは窶れた女性の声がした。
「あ、二田署刑事課強行犯捜査係の刑事です。新藤と申します。賢二さんの件で幾つかお伺いしたい事があるのですが」
少ししてから玄関の扉がゆっくりと開き、中から被害者の母親と思われる女性が出て来る。奥でそのボサボサの髪の毛を一まとめにしたと思われる女性とは不釣り合いな自棄に尻尾振るチワワを鈴木は見つける。そいつは話を聞いている最中、新藤の傍にくっつきっぱなしであった


「というかまず、そのストーカー女はしつこく被害者に体の関係を求めてたって何かおかしくないですか?」
久しぶりに外出れたと思ったらまた建物ん中にいたよー。と鈴木は自分の椅子で伸びをする。二人分の缶コーヒーを買ってきた新藤は彼の膝元に一つ投げ付けた。
「普通は男からっしょ。何?食われる?は?」
「じゃけ、ほらお前人妻系見んじゃろ」
「若い方がいいです。若過ぎても困りますけど」
「性欲は男は10代後半から20代前半がピークで、女は30代後半なんじゃってよ」
「それが本当なら、年齢範囲を拡大しないと」
「そうそう。そういう事が言いたかったの」
空になった煙草の箱を宙に投げてはキャッチする。それを見た鈴木は自分のをポケットから取り出し、新藤に差し出した。残りの本数は二本。彼は新しいものを先程買っていた。
「あげます」
「これ薄い。…嘘嘘。ありがたく貰っとくけ」

夕暮れ、蝉が鳴く。ふと誰かが「裸になりたい」と呟いた。茹だるような暑さの原因はクーラーの故障である。支給された団扇で職員は揃って自分を扇いでいた。そんな夏の日。新藤は思い出したように席から立ち上がった。斜め左前に席を構える鈴木もパソコンから顔を上げる。
「よし、サボりに行こう」
「……帰ったら、一緒に書類作成ですから。帰らせませんよ。てか、帰れませんよ」
「今日は鈴木も一緒に行こうやー」
「奢ってくれるなら」


本日二回目の外出。定例会に二人の姿は無かった。




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