戯言仮2
□Siren
1ページ/1ページ
夢の中で、少女は電車に乗っていました。席は埋まっており、疎らに人がたっている状態で、少女も進行方向右側を向いて立っていました
何も起こるわけでもなく本当に立っているだけで、外から見たらロボットのような芸術的無表情でしょう。それはいつかみたバンドのヴォーカルのアーティスト写真のようでした
突然、少女の右耳に'リーン、リーン'とあの目覚まし時計の音が、遠くに聞こえました。小さい音ながらしっかりと自己主張をしていて、少女の耳から離れることはありませんでした
"リーン、リーン"
少女は目を覚ましました。見知らぬ部屋、見知らぬ人間、見知らぬ布団、見知らぬ私。全てが変わっていました
そうだ、昨日家に帰ったら風邪っぽかったんだ
見知らぬ人間達は少女を観察していました。それはもうあのロボットのようなヴォーカルのように、無表情でボードに書き込んでいくのです
不治の病。少女はなんとなくわかりました。きっとこの病気は若い人をどんどん殺していくのだろう。人間は生まれなくなってしまうのだろうと。私はその最初の患者で、今も病は拡大していっているのだろうと
少女には夢がありました。少女は自分で自分の希望を潰しました。夢は叶わない、私はもうすぐ死んでいく。無作為に選ばれた私は不幸だっただけ。少女は見知らぬ人間に見られているのに耐えるため、目をつむりました
少女は夢を見ました。また電車の中で、少女の乗っている車両には5人しかいませんでした
一人はゲームをやっていて、何かに勝ったのでしょうか、楽しそうな表情を
一人は本を読んでいて、悲しみのあまり、開いている頁に池を作っていました
一人は缶ビールを片手にスポーツ新聞を隣の座席に広げ、新聞紙を空いてる拳でひたすら殴り
一人は誰かのウェディング姿が写った写真を見ながら音楽を聴き、朗らかに外を見上げてました
一人は背筋を伸ばし、虚ろな目でどこかに焦点を合わせているだけでした
少女は上手く合わないピントを窓の外に合わせようと、無表情ながら努力しました。調度、河原の土手を渡っているところで、鉄橋の真下には、赤い彼岸花が怖いくらいに咲き乱れてました
"リーン、リーン"
今日も誰かの着信音が電車の中で響き渡るでしょう