戯言仮4

□何かを僕は見失う
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東陽町はとても蒸し暑かった。特に意味も無く降りたホームに、大手町方面行きが流れ込んで来て、最後尾に一番西船橋寄りに居たため、僕の少し伸びた髪の毛が強く靡く。一緒に全て吹き飛ばされてしまったような気がした。
通勤客が怪訝な顔をして僕を見ていた。地下は非常灯が列んでいるその地下空間は閉塞的で、普遍を思わせる。金属で出来た柵から身を乗り出して広がる暗闇を見ていたら、車両はとっくに発車していたようで、遠くで子供の声と、大人の溜息が聞こえた。

友人が風俗に行こうと誘ってきた。どうせ、割引券代わり何だろうと正直に言ってみたら、あっさりと彼は認め、だからこそ行こうと僕の腕を引っ張る。案内された先には、お世辞で可愛いと言える程度の女の人が短いワンピースを身につけて、布団の上に座っていた。時間が勿体ないからと言って、彼女は僕に擦り寄って来る。時間なんて腐る程に何時か膨れ上がって破裂しそうな位にあるのに。僕は彼女を拒み、唯膝枕をしてもらった。人間とは冷たかったり温かかったりと忙しい生き物だと、熔かされるように襲って来る睡魔の中で感じた。

天気予報を朝、見ないまま家を出たのがまずかったらしい。バイトが終わり、ビルの裏側から外に出ると、バケツをひっくり返したような土砂降り。スコールだろうと10分程待ってみたが、降り止む気配はない。埒があかないと目の前のコンビニに駆け込んだ。そして色々物色している振りをしながら財布を覗く。傘を買えるだけの金はそこになかった。傘を盗んだ。コンビニを出てすぐ脇にある傘立てから何食わぬ顔をして、一本、真っ黒な傘を盗んだ。


何時から僕は信号無視をするようになったのだろうか。
何時から僕の時間がこんなにも余るようになったのだろうか。
何時から僕は何を見失ってしまったのだろう。

東京は今日も蒸し暑く、人が蟻の様に密集しては離散していく。そんな街に僕の居場所はないらしい。

悲しみは地下鉄で見失った。これ以上雨に濡れる事もないのかもしれない。日はまた昇ると言うけど、地下に太陽はありますか?無機質が汗をかく地下鉄に悲しみを置いてきた僕の末路は変わらない人生。






(〜20100712、拍手)

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