戯言仮4

□ベラと天魚
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男に昔昔の××が届いた。雲間からは陽光が差し、それでも、雨は変わる事無く、大人しく降っている、そんな天気を窓の内側から見た。建物の最上階からの眺めは東京湾を見渡す。霧がかかった房総を見つけた。白い雲に旅客機が消えていく。

それは報告書であった。茨城県山中に女性遺体を発見。偶然居合わせた同僚が、知り合いにどうも似てるから確かめてくれと言われて読んだ文章。知り合いに間違いなかった。それに気付いた時、男は溜息を吐く。そこに涙はない。それはある青が世界を覆っていた時。

胎児。臍の緒こそ、随分前に契れてしまったが、恰好は出生時そのままであったそうな。

嘘に嘘を重ねた知り合いは、自己を無くしてしまい、ある時、泣いた。男は声をかけた。「俺がいる」それが何の糧にになるのだろうか、知り合いは泣き止む。東京に似合わない雪が降った日。

体を重ねた時に感じるあの切なさと同じ。
男は雑音が静寂に変わる境界を見つける。黒く汚れた平和の象徴が空に飛び立つ。突然変異のアルビノの鴉が海に逃げていく。

それは事実であった。安置された知り合いを見るとそいつを叩き壊したい衝動に駆られる。同僚は何も言わずに部屋を出た。男は隅にあったパイプ椅子を隣に置き、起きない知り合いを見つめる。八溝山地に低くて重い雲がかかっていた日。


どうやら、綺麗に死んでしまった。
後、どうやら、男は知り合いを愛していたそうで。


受精時に分裂して出来る卵細胞の消滅と第ニ極体の残留の結果。男は泣く事も出来なかった。




(〜20100630、拍手)


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