戯言仮

□レゾンさんとデートルくん
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何処に行っても同じ、何処に行っても同じ、何処に行っても君は笑わない。


延々と続く首都高に君は「飽きた」と一蹴りして、男に降りろと指示する。灰色の空に白いビル。黒い道路に白い文字。溜息を吐いては車の窓を開けた。
「つまらないつまらないつまらない、全部同じ。何も変わんない」
「東京タワー見えたでしょ?因みに今此処は大井です」
まるで子供のように、ペットボトルの水を開け、窓から垂らしてみせる。赤信号で停車すると、水は同じ場所に向かって落ちて。
「風がないんだよ、今日は。やってても何も変わんないよ」
君の手からペットボトルを奪い取ると、そのまま男は口を付けて飲み干した。君は男の目をずっと見つめ、暫くすると目線を空になったペットボトルに移す。
「お前はお前、ペットボトルはペットボトル、水はお前の胃の中、胃酸と混じり合う、嗚呼気持ちが悪い」


青と赤の羅列で出来る交通という巨大な網。それと同じで電気信号の羅列で出来る存在という何処までも広がる認識。

君は暇そうにつらつらと語り出した。
車に乗っている事も、お前が隣にいる事も、東京の景色が何処も同じである事も、水が今空である事も、外部から情報を得て、認識しているわけ。なんなんだよ、情報って。
じゃああれだ、水がないと君が叫んでいるのも君の声や様子という情報を神経が読み取ってるに過ぎないと。
そう考えると、私はホントは生きてないのかも知れないね。水もホントはあるのかもしれないよ。東京の景色も同じじゃないのかも知れない。首都高を降りていないのかもしれない。お前もホントは存在してないのかもしれない。
何それ、つまり、夢だって事?
私が言いたいのは、情報の塊で存在はあるんだなって事。頭悪い?
"存在がある"っておかしくない?
存在は成立してるんだって。機械と同じなんだよ、結局。サイボーグだって作れる世の中なんだ。でも、どうしても生物と機械は同じだって言いたくないんだよ、人間は。自分が機械だって言ってるもんだろ?それを否定するには生命の定義が出来ないと。
生殖機能。
アメーバとか見ろ、あれは唯のコピー。コピーだったらパソコンの中でも画像の増殖だって出来る。でもな、大体の奴はアメーバを生命だと呼ぶんだよ。
話ズレてる。
あー、まぁいいや。とにかく、こういう事を考えると、何が夢で何が現実かわかんなくなるよねって話。夢に現実が食われる?寧ろ夢と現実は同じなんじゃないかな。
つまり、君は何が言いたいの?
…水が欲しい。


「飽きた」と君は首都高が見える河原に車を停めろと催促した。緑の雑草に白く延びる首都高の柱。海の方を見ると二股になっている。土手の上道路は青信号で、車が絶えずに何処か走り去る。
「あっ、そうそう。因みに此処は西葛西ね」
君は片手を窓から出し、地面に水を落としていた。男が呆れたように奪い取ろうと、下を見ると小さな小さな名も知らない黄色い花。
「私の思考が夢でも現実でも、花が本当は無くても、取り敢えず目の前に見えるんだ。嘘の視神経だとしても」
最近雨降ってないから。君は小さく笑うと男は元の位置に戻り、それから溜息を吐いた。
「ややこしいよ、×××め」
後部座席に置いてあるビニール袋からペットボトルを二本取り出し、一つは開けてさっさと飲み、もう一つは外に夢中になっている君の膝に置く。
「風が無くてよかった」
「同じ場所にしか落ちないのに?」
「…煩い」




(〜20100411、拍手)


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