戯言仮

□夢なんてそんなもん
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煙草はしけていた。私は新しい煙草の箱を開け、一本吸ったら寝る事にしようと思っている。


「ねぇ、昭仁、次はあれに乗ろうよ。足が宙ぶらりんなジェットコースター」
僕はその言葉に多少抵抗するが、女の勢いに流され、足はそちらに向かっている。きゃっきゃっとまるで子供のように騒ぐ女に手を引かれながら、左右見回そうとするが、固定カメラのように視点が動かせない。恐らく女が真ん中にいる。特に嫌とかそういう感情は一切ないが、寧ろその中に感情は存在していないんではないだろうか。
「次次、次はさ、メリーゴーランド乗ろう」
はて、僕は女と一緒にジェットコースターに乗っていたか?今思えば乗っていなかったと思うが、その時の僕は気にも止めず、今度はメリーゴーランドの方へ歩いていた。多分。
草原のような所に来た。女の洋服はいつの間にか変わっていて、ジーンズ姿になっている。そして強い口調で僕に「飛び降りろ」と命令する。女近くに立つと、此処が何処かの屋上で、地上30階以上だと判った。下では絶えず車が流れ、人が塵のようにわらわらと集合しては離散していく。
まるで僕は誰かに追われているようで、僕は躊躇いなくそこから飛び降りた。顔に当たる風はない。落ちていく中で僕は女の顔を見たはずなんだが、全く覚えていなかった。


カーテンを開けると面白くない程に晴れた青空。まだ煙草の臭いが部屋に充満している。重い腰を上げ、起き上がってまず最初にする事はパーカー探し。流石にまだTシャツ一枚だと肌寒い。そして部屋の空気の入れ換えのため、窓を開けた。地上3階のこの部屋の景色は変わり映えがない。仕方がなく、私はもう一本煙草に火を点ける。しけていた。夢を見た後だと、どうしても体が疲れている。


「で、飛び降りたら起きたの?」
「そうそう」
君はつまらなさそうに僕の話をテレビを見ながら聞いている。天気予報によると今日は全国的に晴れるらしい。
「夢診断であるよね、飛び降りたらどうたらこうたらとか」
「あんま調べた事ないからのぉ」
「あたしも知らないけど」
続いて芸能ニュース。大物俳優の離婚が大きく報道されていた。因みに僕があんまり好きじゃない俳優。
「女の人がね、出てきたんよ」
「誰?浮気相手?」
「わし、浮気しとらんし。全然思い出せん。小学校の友達だったような気もするし、会社の同僚だったかもしれんし」
「夢なんてそんなもんでしょ」
君は携帯を取り出し、早速誰かにメールを打っている。ニュースにも飽きたらしい。
僕は誰に言うのでもなく、「疲れた」と部屋に漏らした。




夢らしい夢、なんて。夢で疲れるなんて、滑稽。太腿が痛い。




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