戯言仮2

□発狂
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戦争で死んだ妻が言う。
「私は零と一と三が好き。それを総合的に考えると私は千が最も好きな数字なんだと思う」
ある年老いた精神科医が言う。
「自殺と狂いは似ているね。どちらも今の絶望からの逃避だ」
何時も何処か異なる場所を見ていた妻が言う。
「自殺なんて、ダメよ。まぁ千回自分で自分を殺せれば、貴方を許してくれるのではないかしら」





さて、私は今戦場にいた。面白くも何ともない死体の上にいる。敵はいない。既に此処は戦場ではなく墓場だった。
一つずつ、死体を海に投げ捨てていく。全て私が私を殺した結果だ。唯唯人を殺してみた。今だって蠢く百足を踏み潰したところ。死体の数を数えている私は酷く虚しい気分になる。敵味方なく殺していく。みんな当たり前のように死んでいく。驚いた事に私は無傷であった。擦り傷なら先程転んだ時に作ってしまったが、返り血で私は構成されている。
この顔立ちは私の味方。あの軍服は私の敵。みんな死んでいる。

自分で他人を殺す事と自分で自分を殺す事が同じだと言ったのは誰だ。千回自殺したら許してくれると言ったのは誰だ。私を助けてくれる存在等ありはしないではないか。
この狂った国に狂った奴がいたって、何も狂っちゃいないんだ。何故ってみんな狂ってるからそれが当たり前になっている。なんて狂った国。人を沢山殺したら崇められる時代。人類の数を人類が減らすなんて、生物学的にしたら自然ではない事は解るはず。

嗚呼、偶然か必然か私が殺したのは調度九九九人だった。一人足りない。私は狂えない。大衆から分離出来ないで、座り込んでしまった。この時に狂うの意味を理解する。
誰一人殺す事もせず、一目散に違う場所に逃げていたら。私は非国民となりこの狂った国から離れられたのではないか。狂うから狂わないもある種の狂うの一つだ。
妻は元々私を許す気等なかったのであろう。「私が死ぬまで許さない」あれは照れ屋の彼女の精一杯の強がりだったのかもしれない。もう、私は許されていたのかもしれない。
後、一人。こんなに殺してしまった私を神は千回狂う事で許してくれるのか。これは彼女を死なせてしまった罪に対しての許しを請う狂いだったのか。
考えはどうしても行動には勝てない。
百足は足を持ち過ぎている。



後、一人。妻は許してくれたか。それが突然知りたくなった。



(〜20100117、拍手)


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