戯言仮3

□あものこうさとん
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あものこうさとん


久方ぶりに見た、強い雨。スニーカーとジーパンの私は傘をさしているのにも関わらず、前から横からやってくる風により、濡れた箇所が偏食している。どう傘を風が来る方向に倒そうとも、全てを防ぎきる事なんて、ちっぽけな傘じゃ出来ない。建物持ってこい。
自転車で帰る気をなくしたら、それはもうしょうがないから家まで歩いて。大きな道路に沿って歩いていくが、オレンジ色の照明が眩しい。雨がその光に照らされる。夜に雨が降る。
走り幅跳び感覚で飛び越した水溜まりは乱反射何も映さなかった。ひたすら雨が溜まりにたたき付ける。水が増えた。
このままの歩調だったら、信号に捕まるな。だからと言って速くするわけでも、遅くするわけでもないけど。めんどいじゃない。信号ごときに人間が左右されると思ってるのか?まぁ、実際には大いに左右されてるというのが現実だが。寧ろ人間ごときに信号は左右されない。
そんな事を考えると、いつの間にか信号に捕まっていた。大きな道を横断するため、信号は当分青を示してくれないだろう。ふとオレンジと赤と青にライトアップの雨線
を見た。これといって特別な景色じゃないけど、今携帯とMP3を持っていなかったら、一日此処にいてもいい。なんだかんだで機械は水に弱いから。そして機械をダメにするほど、金持ちじゃないから。線は地上目掛けて槍のように落ちていく。それは人間にも建物にも信号にも車にも、落ちて、小さな小さな穴を開けた。
信号がやっと赤になって、右折を始める。黒い車が反対側の脇に停まったのを見計らったように歩き出した。調度青になったんだから、罪はない。
散歩は此処まで。車の窓からは寝起きの憎い野郎が顔を覗かせていた。苛立たせないうちに早く乗り込んだ。




「さっきさ、画面見ないで"こうさてん"って打とうとしたら"こうさとん"になっちゃった」
「残念、そのメールは私に届いてない」
「送ってないから。だけど来たじゃん」
「単なる偶然だ」




信号の真下を、雨の真下を華麗に、醜く車は通り抜ける。





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