戯言仮3

□お隣りさん
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隣の部屋に誰かが引っ越して来たらしい。朝から家具の搬入やらで五月蝿かったから。そして昼過ぎに折り菓子を持って挨拶周りにやってきた小柄な男は、俺を見て嫌な顔を、否、オーラを体中から発した。何かを感じ取ったんだな、きっと。その日の明け方に人を何人か殺したし。因みに彼が持ってきた菓子は、ワッフル10個入り。色んな味があって、1番お気に入りはプリン。全体的に美味かった

「俺ん家来ない?」
男のお客さんを5名ほどリビングに入れた。ほらほら性急に俺を脱がし始めて、自分は醜く、笑ってればいい。足で脱がしている男の首を蹴る。更に引っ掛けて頭を床に打ち付ける。いきなりコンバットナイフを持ってる俺にびっくりしたかい。お前らが俺を押し倒したソファーの下にはナイフがぎっしりだ。その一本を抜いただけなのに、目をぱちくりしちゃって、醜い

引っ越して来たお隣りさんに嫌われないように出来るだけ、殺す時に音は出さなかったが、何回か大きな声を出すから、聞こえてしまったかなと小さくショックを受ける。新しい殺害方法を見つけなければ。その最後の相手はどんな死に方をしたと思う? 「おっ俺、金持ちなん…だ!!金、金っ、払うから……」金か、いらないね。たかが紙切れだろ。紙切れで命を買うほど、まだ俺は腐っちゃいねぇんだ。ああ、生きたいと思ってるやつを殺すほど面白い遊びはない。女も男も何も興味はねぇ。その命にのみ興味があるんだ。金じゃ買えない命にな

外の電柱に取り付けられてる蛍光灯の光を浴びる俺と死体。臭くなるし、腐るから早く処分しなければならないのはわかってるんだけど、脱力感に襲われてしまった。決して疲れてるわけじゃないんだけど、何にもやりたくない。口を大きく開けてる死体に、また別の死んだ腕をくわえさせる。死人の死人による死人のためのカニバリズムの完成だ。内臓を食べさせてやりたいが、腹を開くと、後々高橋にこっぴどく怒られて、その後もネチネチ言われるだろうから、また俺は無気力を被る

殺してから2時間後、高橋がうざい金髪を揺らしながらやってきた。眩しいからやめろっつってんのに、幾ら言っても「別所の性癖の方が狂ってると思うんやけど」とニコニコ呟いて流される。また今日も同じやり取りだった。今日は夜遅いから持って帰るみたいで、血が見えないように隠して、背負って車に乗せるというのを何回かやった。これで今まで人に見られなかったのは奇跡だと思う。この広い東京でも警察は一応頑張って暴走族を追い回してるんだからさ

隣の岡野さんは寝てるのだろうか。耳を壁に当ててみたが、何も聞こえない。ベランダに出て、中を伺ってみたが、何も見えない。これじゃ前と同じじゃないか。岡野さんが引っ越してきても、俺は何も変わんない。また広くなった俺の部屋を見回す。無機質な家具しかなかった。植物の一つでも置けば、気が変わったりするのだろうか

あっ
岡野さんに手伝ってもらえばいいんだ。高橋だけじゃ、もうそろそろ限界が来てるし。このおかしな雰囲気に気付いた正常な岡野さんを俺の部屋の中に入れよう。そして、何かが変わったらなと期待する俺を、俺が馬鹿にした

残ってるワッフルは後3つ、バニラとかぼちゃとコーヒー。適当に掴んで食べた。夜の間食に外ならないが、俺が食ったのはコーヒーだった。苦みが俺に染みた。後で高橋が上がって来たら、どっちかに山葵をたっぷり入れといて食べさせよう。そしてわさび入りを食べたら岡野さんを俺の中に入れてやる。食べなかったら、何も変わらない日常で何も変わらずに生きてやろうじゃないか







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