戯言仮2

□嫌〜渋谷編〜
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だから僕は神様じゃないんだよ




〜渋谷編〜





カチカチカチと、電車の窓を雨が叩く
煩いなぁ、もう。耳元で鳴るもんだから静かに読書も出来やしない
iPod忘れたりとか、末期だろ、僕



「iPodないのー?」
「忘れたんだよ」
「好きな曲たくさん入ってるのに」

だったら、自分のMP3に入れればいいじゃないか。僕が彼女にiPodを毎回貸さなければならない状況が腹立つ原因でもあるのに

今日、駅でばったり彼女に会うとは思ってなかった。僕が神様だったらiPodを忘れることはなかったのに。今僕がこんなにも怒られる理由はなかった

スクランブル交差点の真ん中で子供が泣いてる。誰もが避けて通る。もうすぐ赤になる。僕はそんな気分だった

「本でも読めば?面白いやつ今日持ってるし」
「私、本嫌い」

だからそんなに頭が悪いんだろ。DQN女め。僕は早く彼女から離れたい。付き合ってるわけじゃない。友達じゃない。単なる知り合いなのに、改札から公園通りまで付いてきやがる

「何でついてくるんだよ」
「暇だから」
「…」

神様だったら渋谷で降りずに原宿までいって降りたんだけどさ。ここで彼女に会うことだってなかったのに

PARCO前、わざと傘を彼女の方に向けて『あっち行け』オーラを静かに出す。彼女と傘は鈍感なのか、何も変わらないんだけど
相合い傘をしているカップルが何組も前からやってくる。そいつらに僕らは"カップル"として見られてしまってるのか。いや、こいつらは自分の相手が大切だから見てるの相手だけだろ

「雨嫌だよー。ねぇどっか入んない?」
「僕は好きだから」

いいから早く行ってくれ。僕は更に歩みを速くする。神様だったら、今すぐ彼女を町田に飛ばしてやるのに。神様だったらなぁ。ベタベタってくっついてくるんじゃないよ

僕は遂に彼女にやんわりと本音を言う

「あの、僕用事があるんだけど」

次に何言ったと思う?驚き過ぎて傘に当たってしまったよ

「私も行くー」







死ね







僕が神様だったら、彼女をさっきスクランブル交差点で泣いていた小さな子供に置き換えてやる
そして、自分の図々しさのお陰で、多くの蟻ん子から避けられると痛感しろ

でもそんな事出来ないんだ。だって神様じゃないから



ただの人間の僕はiPodを忘れた事を悔やみながら、雨が酷くなればいいと思って、静かなる心境を抑えて、公会堂まで…頑張るんだ

だから僕は神様じゃない




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