戯言仮2
□パンジー&ガーベラ
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冬、僕の仲間の寒梅が咲き始めた頃。人間のようにコートやマフラーがないから裸の状態で、とあるマンション脇に立っていた
『…お邪魔します』
こっそり、僕の向かい側の号室のお宅に窓から入ってみた。どんな人が住んでいるかは、彼女が引っ越して来た時から知っている。何処にでもいるようなOLさんだ
その家の主の女の人はソファーに大きく寝転び、口を半開きで寝ていた。その光景に思わず悪戯がしたくなり、小さな桜の枝を持ってきて、口の中に落ちないように上手く唇に乗っけた
『これで、OKじゃ』
すみませんが、勝手に暖房を点けさせていただきますよ。あなたも何も掛けないで寝ていたら風邪をひくでしょと、着ていた紺色のPコートを枝が落ちないように静かに掛けて、出窓に座った
ひんやりしていた出窓は僕が座っても冷たいままで、端に置いてある観葉植物の土は乾いている。彼に問い掛けても、返ってくるのは『水くれー』の言葉だけ。何ともいたたまれなくなって、台所のコップに水を並々と注いで、土を湿らせた
『ありがとな』と言って出て来たのは、背の高く声も高い男。彼も僕と同じで人間には見えない存在なのだろう
『この子、俺の水やりを忘れなきゃとってもええ子なんじゃけどのぉ』
『忘れ物が多そうな女の人みたいじゃもんね』
そこで彼は、僕のした悪戯に気付いたようで、更に葉を枝の上に器用に置いた
『前の桜さんじゃろ、お前』
いきなり正体を当てられてちょっと驚いた。誰が何処に宿ってるかなんて、普通わからない
『どうしてわかったんよ?』
『勘じゃ、勘』
綺麗な顔が笑ったから歪む。また僕は冷たいままの出窓に座ったら、彼も隣にぴったり張り付いて座って来た
『近い』
『寒いんじゃもん』
『暖房点けてるから』
『人の家の物勝手に使っとるけどね』
パッと離れて、彼は女の人の顔を覗き込む。見つめると二つに分けた額にキスした。幸せそうに、絨毯がひいてある床に胡座をかいて本を読み始めた
出窓が温かくなった気がする。僕はそのまま、彼女が起きるまで出窓に居座る事にしよう
「…はむっ!!」
『葉っぱ食べてやんのー』
「このPコート誰の…?」
『あっ、忘れてた、わしのです、わしの!』
『聞こえるわけないじゃろ』
桜が咲く頃になったら、たくさんの花びらを持って、ベランダにまた来ますね
観葉植物さんと一緒に待っててください
(〜20090226、拍手)