戯言仮

□染〜大手町編〜
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眼下に広がる傘を横目に

あっ、白い鳥



〜大手町編〜





仕事を抜け出そうと四苦八苦だが、

お気に入りの屋上も雨粒に占領されてるし

しょうがないから上の空



「何、お前また失敗したのか?」

隣の同僚の言葉も、流す

「まー、そんな感じ」

そこで会話終了になるわけがなく

「だから窓の外みてたんだろ」

「そんな感じ」



同じような言葉を繰り返した結果、人間が飽きるのは知ってる



髪の毛切ろうか

このうざったい前髪を

奇抜に染めてやろうか

この面白みのない黒髪を


デスクに鋏はあるけど、絵の具はない


気まぐれにパソコンを開くはいいが、デスクトップの背景はどこか常夏の島の快晴



いまいちパっとする色の傘を持ってる人は、ずっと上から見てるのに、全くいなかった




やっと退社時間になって、いつも通り人込みに紛れながら、やっとのこっさで傘を開く

深い藍色

僕の心の色か


風は僕の背中をはじめ、様々な人間に

雨は僕の足元をはじめ、色々な人間に


逆に綺麗な色に染め上げる




無性に人間が嫌になり、路地裏に入った

傘を閉じ、薄暗い壁にもたれ掛かる


まだ外は明るいのに、丸ビルは電気をつけ始めた

猫が水溜まりに入り遊んでる

その先には、真っ赤な傘を持つ女の人がいた

僕の恋人だった



「なんで、こんなとこにいるの?」

「たまたま用事があってね。でも人が傘と傘を擦り合わせて歩いてるのが嫌になって、群れから外れてきちゃった」




雨はいつの間にか止んでて、水溜まりには青空が映っていた









染め上げてみせよう
似た者同士、このマチの裏にゐたりける


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