戯言仮

□普遍
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少し高い場所から見下ろしたコンコースは広さに比べて、疎らに人が行き交っている。日曜の通勤口、この出口の先には埠頭が依然とし存在し、左手を見れば、ライトアップされたレインボーブリッジだけ。
唯人を見ていたのではなく、人という集合体を二階という別の視点から見ていた。そこで何がしかの発見があったかと問われれば、皆、きちんと服を着ているな。という程度。後、幼い子供は見ているだけでハラハラするという事だけ。剥がれていたであろうタイルは綺麗に直され、そこだけ新品さを光らせている。

はろーはろー

足を組み替えた時、階段を駆け上がってくる人影を見た。目は合い、迷わず私のテーブルに近づいてくる。

はぁい

私のテーブルに既に飲み物が置かれているのを見たのか、自分も鞄から財布を取り出し、飲み物を買いに行った。予想してやろう。ホワイトモカだ、多分。

ほら

予想通りの物を買ってきた彼を笑い、私は早く座れと促す。意味がわからないとでも言いたいような顔をしながら渋々座る彼を見て、無性に愛おしくなった。

なんじゃよ

少しして、私が飲み終わると、そのまま手を引いて連れ出した。人が疎らな通勤口に連れていき、私は手摺りにもたれ掛かる。

へんなの
おさんぽしよう

彼が怪我をしたこちら側を出て、海に向かって歩く。高層マンションを見上げひたすら溜息を漏らす彼の背中を時折押しながら、話した。どうでもいい事。

くもってる

やがて運河を越え、終点に行き着いた。汚い汚い東京の海がコンテナ船と共に出迎える。流石に海風は少し強いが、吹き飛ばされそうという程でもない。

つめたい

彼は私が手を突っ込んでいるポケットに手を入れてくる。彼の手は寒かった。私は果ては無い癖に縮まっている小さな小さな世界を感じる。

よるはきれいなんだ

頂点から傾きかけていた陽が流れる時に押し倒されていき、影は私と彼を作り直していた。分解しては再構成を脳内で繰り返す。遊覧船は前を通ってみせた。首都高は絶えず車を流してみせた。全て小さな私の世界。彼は、

せかいにくみこまれてるのか
なんの
わたしの

私が認識し続ける限り、私の世界は彼を否定はしないらしい。私が尋ねる前に彼は既に答えていた。彼の世界に私はいないらしい。何処に在るのか、彼の隣で共存していると返答する。

きもい
しってる

笑うと、彼も笑った。








私達が帰った時、港南口は人が先程よりはいた。新幹線の改札から出て来た団体客が大きく見せている。あの高層マンションに帰る者達なのか、迷いもせずに出口に吸い込まれて行く者も多い。
中央改札まで歩き、彼は送ると言ってくれたが今日は電車で帰りたいと断った。あっそう、あっさりと手を引いた彼は手を挙げると高輪に消えていく。人に紛れるのが上手いなと感心して、コートのポケットからSuicaを取り出し、私は改札に入り、ホームで午後の空を見てみる。


『刑事と裸族』
(〜20100609、拍手)


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