戯言仮2

□ケムリ1
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まるで、そう、煙草の煙。何処にでも彼は居て、何処へでも付き纏う。あまりに臭いが強す過ぎるから他の煙があっても飲み込み、消化する。そういう男だ。

「行ってきて」
その男が俺の前にいる。そして茶封筒を渡してきた。中に書いてあるものを見ると俺にはあまりに残酷な仕事で、吐き気を覚える。
「嫌だと言ったら?」
「ここでお前が死ぬ」
「でしょうね」
俺が肯定を示さない限り、男は立ち去らないようである。こいつの方が身長が小さいくせに、俺がさっきソファに座ってしまったばかりに、今は見下されていた。
「どうなん。殺るか死ぬか」
そう口を開いた後、彼は無表情で俺を見てくる。何も考えていないようで、膨大な量を計算しているようで。唯解る事はこの男の無表情は相当来るものがあるという、それだけ。
もう一度、封筒を見る。親しい名前と慣れた顔が貼ってあった。
「何故、俺に?」
ニコチンが切れ始めたのか、男は自分の煙草に火をつけ、ゆっくり吸う。俺はこの銘柄の煙が大嫌い。知ってて吸っているのなら質が悪い。灰がカーペットに落ちた。
「別所が辛いと思うから」
じわじわと俺を蝕んでいく、こいつの煙。気に入らない。
「どちらにしても別所は死ぬでしょ」
嫌でも窒素や酸素に紛れ取り込まれる煙。
「楽しいから」
俺はこいつに逆らえない。

外に出たら空は澄み渡るような快晴。俺の服には男の煙の臭い。足取りは重く、彼が残した煙草の箱を自動販売機の屑箱に詰め込んだ。
それでも俺に染み付いた煙は取れない。太陽の光さえ跳ね返してしまう。こんな男に俺の勝ち目はない。





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