戯言仮2

□屋上ノ孰カ
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ふとした時、私は足の震えが止まらなくなる。足に力を入れるとそれが更に酷くなり、立っていられないまでにもなってしまう。痙攣の類のものであろうか。でも一つ言えるのが、その痙攣紛いの震えは私にとっては極めて病的であった。怖い、足を抑えながら、そう思う。



頭を強く打ったらしい。病院で会った彼の頭には包帯が良く巻かれていて、いかにも怪我人というのを醸し出していた。そして夢の話を私にしてくれた彼はとても小さく見え、私はそれにまず驚きがあった。その後に悲しいという感情が胸に湧き出てきて、あまり彼を見る事が出来なくて情けなくなったりと忙しかったと思う。
とにかく、傷ついている彼を見たくなかった。自分のせいではないと判っているはずなのに、どうしても私は私を責めようとする。それのせいか、私は今無気力で堕情に生きている。湯舟に浸かった所で見上げては天井から落ちてくる水滴が私の髪の毛に当たるだけで、何もしない、何も変わらない。本当に唯在るだけの物体。

新藤は新藤である。そこに変わりはないし、変わってはいけない事。鈴木曰くどんどん元気に回復しているらしい。情けない自分が露呈する事を怖れている私は、あれから一度も見舞いにも行かず、鈴木を通じて彼の今を知る。実際怖れているものは情けない私ではなく、新藤なのかもしれない。


夢を見たと私に話した。気になって別の知人にあの日は何時、何処で、何をしたかを聞き出すと、恐ろしいほどにそれは夢に一致した。不思議な事も世の中起こるらしい。夢は記憶の整理で起きる現象だと言われている。あの知人が経験した記憶が新藤の頭の中で整理されていたとでも言うのだろうか。

まるであの日の新藤は新藤じゃないようで。でもどうしても彼は新藤だ。どう、あがいても。




何分、何時間経ったかわからないが、湯舟から出ようと、立ち上がった時。また四肢の震えが止まらなくなる。これはダメだ。大人しくまた湯に肩まで浸かった。
怖い、怖い、何が、何かが、
何が、わからない、怖い、









「新藤さんが淋しがってましたよ、来ないんかなぁって」
「忙しくて、な」
「会いたいですって。笑っちゃいますよね。品川で怪我して、誰かと変わっちゃったんですかね、ほら、よくミステリー小説であるじゃないですか」
「そういうのに限ってコケる場合が多いけどな。人はミステリー小説のようには動けない」
「まっ、とにかく暇があったら来てくださいよ」




 ごめん。









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