戯言仮2

□品川爆発
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「品川行こ」
「はぁ?何で」
「おもろいもん見れるで」



新藤は鈴木の帰りを待っていた。今日、彼が此処にいるのは誘拐犯がこちらで身代金の受け取りを要求してきたからである。あちらこちらに同僚や管轄の奴らがいるため、迂闊にぼーっとしていられない。
「はい、新藤さん。カプチーノ、370円」
「そんくらい出してよ。ケチじゃのう。お前は?」
「カフェモカ、430円。新藤さん出してくれるんですか?」
「嫌」
しゃーないと新藤は財布から100円玉を四枚出し、鈴木に渡した。
人は途切れる事なく、港南口から大企業の社員達がどんどんと流れ込む。つまらなそうに新藤は二階からその大群を見つめ、テーブルに視線を落とした。鈴木はパソコンを開き、キーボードを叩いている。
「後何分よ」
「今5時前ですから、もうちょっとで指定された時間帯が始まりますよ」
階段近くのボードにさくらフラペチーノという字を見つけ、興味を示し新藤は或る女の事を考える。どうせ買ってこいと言われるのなら先に買ってやろう。あまりに暇過ぎて、もう一杯カプチーノを買ってきた。



「品川って意外と都会だよね」
「港区やもん。六本木ヒルズも東京タワーもある」
「で、何飲んでんの」
「ココア」
「人生の勝ち組が一杯だー」と別所は椅子を引き、低い体勢になってテーブルに臥せる。高橋はチラチラと携帯で時間を確認して、コンコースを覗く。視線をずらす途中に面白い物を発見したようで、別所の肩を叩いた。
「ドッペルゲンガー発見」
「はっ?」
けだるそうに別所は起き上がり、高橋が顎で差す方向を見る。が、そこにはサラリーマン風の男が一組いるだけであった。
「後ろ向いてる奴、見てみ」
「後ろ向いてるから見えねぇんだよ」
調度その高橋が言った例の男が席を立った。どうやら何か買いに行くらしい。机を一つ挟んだ通路を彼は通った。別所は「あっ」と声を漏らし、その後携帯で自分の顔を確認する。その様子を見て、高橋は机に顔を臥せ、肩を揺らして一生懸命笑いを堪えていた。
「あいつ何だし」
「別所、最高過ぎ」
別所はチラチラとその男を見ながらも、彼が自分の机に戻ってくる時、咄嗟に反対側、港南口を見つめた。
「俺はあいつに見られない方がいいと思う」
「何で?逆手に取って、利用っつう選択肢は?」
「めんどくさいの嫌いだから」



鈴木は先程から新藤の顔を何回も見ている。それに漸く気付いた本人は、逆に鈴木を見つめてみた。
「何ですか、新藤さん」
「お前の方こそ、何でそんなにわしを見る?」
「いや、」
一瞬鈴木は言葉を濁らせたが、直ぐに「新藤さんが、不細工になってるなーっと思って」と返す。
実際気付いていた。あの金髪を鈴木は見た事がある。というかカイロをあげた仲だ。その男が同じスターバックスに居て、しかもその相方が新藤とそっくりときた。絶対に偶然ではない、妙な確信があった。



「もう直ぐじゃ」
午後6時から午後7時にかけて、品川駅新幹線乗り場南口で、と誘拐犯から要求があった。身代金は一億円。誘拐されたのは大手家電メーカー常務の一人娘。マスコミには発表していないがかなり大きなヤマである。
6時、全捜査官に一斉に連絡が入る。そこを通る全ての人間を見張れとの事。しかし、今は帰宅ラッシュ真っ只中。人が蟻の様に密集し、とてもではないが、それは不可能だった。
不審な行動をしている奴がいないかと、目を懲らしている時、地面が揺れた。小規模なものである。地震でもあったのかと、そのまま無視し、見続けていたら、本部から無線が入った。

『―た―口爆発―』
それを聞き取るのが精一杯であった。
「見つけた」
或、帰宅ラッシュが途切れた刹那、港南口はつんざくような爆音と白煙で包まれていた。鈴木が急いで立ち上がると既に新藤は走り始めていて、階段を何段飛ばしかで下がっていく。鈴木は一瞬、金髪を持つ男と新藤にそっくりな二人組を一瞥し、急いで本当の新藤を追った。






「うわぁぁああ」
「何、岡野は脳の血管切れましたか?」
「じゃって、じゃって、高輪から品川駅に入ったら凄い音が聞こえて、一杯人が走って来たからそれに驚いて走るじゃろ。で、総武線の上辺りに来たら港南の方でも爆発したじゃろ。わしを殺そうとしとる?直之さん」
「何で僕?」
「あれ、そういえばさ、岡野の会社って品川なの?」
「別に。今日は挨拶で用があっての。直帰じゃし。あー、死ぬかと思った」
「何なの、高橋知ってたの?」
「誘拐犯が指定した場所が此処やって事だけ」
「高輪爆発してから港南爆発するまでタイムラグは約20秒ないよね?」
「わし、物凄い勢いで走った」






『刑事と裸族』『殺人鬼と解体者』
(〜20100309、拍手)


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