戯言仮2

□回る繋がる
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「少し、派手過ぎ。それ、どないするんよ」
男はそれを聞いて初めて彼の気配を感じた。今の今まで"俺だけ"だった世界に干渉してきた奴、元々"俺だけ"ではなかったのかもしれない。
黒いニットを被っているが所々から出ている髪の毛で彼が金髪という事がわかる。街灯に集まる蛾がとても欝陶しく音を起てていた。

或る夏の夜。

ナイフを拭きもせず男は自分のポケットにしまい、彼に背中を向けた。
「あれ、処理はせんの?」
足音がこちらに近付いてくる。先程のポケットとは反対側にあるアイスピックを中で弄りながら振り向いた。
「何、お前」
彼はその言葉に苦笑する。持っていた鞄を地面に置き、何かを取り出した。
「こーいうもん」
肉屋のナイフに鋸、彼はそれを男に見せた。
「やっぱな。見つかるのが一番嫌やから、見つけられへんようにせんと、ね」
「だから、お前は何なの」
「わかるやろ?バラバラにする人」
刃を首筋に宛てて鋸を引き始める。骨まで到達するとその音は更に大きくなった。
アイスピックから手を離し、男は彼に近付いてみる。慣れているようで、あっという間に頭部のみがこちらへ転がって来た。そこで初めてこの死体の顔をよく見たが、何度か見た事のある顔。
「あぁ、こいつは俺と同じマンションの奴だ」
「それはよかった」
興味なさそうな声で返されてしまった。




それから約一時間後、彼は近くの公園のブランコで立ち漕ぎをしている。男は小さく揺らしながら隣の彼を見ていた。
「名前は?」
「んー?僕の?んー、高橋。君は?」
「別所。…おい、危ないぞ」
ぐるんとブランコが真上に来たと思ったら、がしゃんと大きな金属音がする。「うわー」と小さく言った彼はブランコを一回転させていた。巻き付いた分だけ高くなった高橋に別所は冷めた視線を送っている。
「じゃあ、別所は銃使った事あらへんの?」
「ない。それが」
「あらー。ほんなら、使った方がええよ」
ぷしゅーっと呟くながら、何かが噴き出る様子をジェスチャーで表した。
「俺はナイフ専門なの」
「駄々こねるな。今日は僕がいたからよかったな。明日からどんどん見つかるで」
「なんでよ」
「警察が気付き始めたん」
最初からもう十人以上殺している。そろそろ無能な彼等でも気付くかなと思っていたら、どうやらもう水面下で動き始めているらしい。
「処理はしっかりせんと。あんまり出ないように銃も使わんと」
高橋はぴょんっとそのブランコから飛び降りた。そして鞄を持って、笑う。
「一緒にやらへん?別所くん。大幅Offで解体してあげる」
何処もかしこも街灯には虫が引っ付いていた。

或る夏の夜。彼等は回って繋がる。






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