「俺はすごく真面目に働いていると思うんだ」 別所は突然(本当に突然)そう言い出した。12月の灰色の空の下、雪が降るかもしれないな、なんてぼんやりと考えながら歩いていた僕は、思わずは?と間の抜けた声を出してしまう。 「まぁ仕事が趣味みたいなもんだけどさ」 ちらりと横を歩く別所を見ると、その口は僅かに綻んでいるように見えた。 黒いコート、背中には黒いギターケース、そして右手に下がった袋の中にはケーキが入っているらしい。 出会ってもう一年を過ぎるが、僕はこの男のことをまだよくわからないでいる。 「ふうん」 仕事が趣味、なんて随分と悪趣味だ。けれど別所がこなす仕事には非の打ち所が無い。 「高橋は?」 「清掃後の始末だけやったら僕はえぇねんけど…」 「だけは無理だろ」 「うん、しゃあないわ」 僕は偽善者ではない。この仕事で掃除されるべきものは、事実ほとんどがゴミ同然あるいはそれ以下なのだから、別段背徳感もない。ただこれは好みの違いであって、僕は生きているものにあまり興味がない、というだけだ。もとい、動くゴミに興味がない。家には熱帯魚を飼っているし、生き物は好きだ。別所がゴミをゴミ箱へ捨てて、僕がそれを処理するだけならそれはとても嬉しいことだ。まぁ実際には僕らがやるのは清掃業の他にもあるのだけれど。捨てられたゴミもバラせば金になるし。 「それにしても重いな…高橋、あと頼む」 言って別所は背負っていたギターケースを下ろして、僕に押し付けてきた。あぁ、確かに重い。実際のギターがどれくらいあるかは知らないが、本物の銃(しかもひとつじゃない)が入ったそれは見た目以上の重量だった。 「重い」 「だから次お前持て」 「…」 今の時代、いくら一度の儲けが高いと言っても、それほど頻繁にあるわけではない清掃業は、金になるようでならなかったりする。だからこうして、その筋の人達を相手に運送業もやっているわけだ。白い粉だって運ぶ(販売はしない)。 「なんで別所一人でもえぇのに僕が手伝わされとるん?」 「高橋は地下にこもりすぎだから」 「はぁ?」 「と、いうことで」 「え?」 T字路にさしかかったその時、左に行くところを別所は立ち止まり何故か右へと体を向ける。 「いつも真面目に働いてるし、たまにはサボらせろよ」 「うーわー」 「ケーキ溶けると嫌だし」 「冬やし溶けへんって」 「待たせると悪いし」 「…誰を?」 別所はそれには答えずにただ笑った。そして去った。 出会ってもう一年を過ぎるが、僕はこの男のことをまだよくわからないでいる。 人には言えないような仕事が趣味だと言う別所。たまに血生臭い別所。携帯に水曜どうでしょうのストラップを付けている別所。仕事を押し付けてくる別所。 でもまぁ、嫌いではない。 12月某日。とても平穏。 |