貰い贈り物1

□死体がある部屋
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まだ朝はこない。窓の外は漆黒の闇。この部屋も同じように暗闇に包まれたままだ。
恐らく、彼はベッドの脇に座り込んでいるだろう。電気が通っていないわけではないし、俺は何処に明かりをつけるスイッチがあるかを知っている。知っているが、それをしないでいる。
鍵の掛かっていないドアを開けた時点で、ある異変には気付いていた。慣れてしまったんだ。この異常には。


岡野は女を殺した。それが何度目であるかなんて、とうに数えることをやめた俺にはわからない。今この部屋にあるのは生きている人間が二人と、死体がひとつ。ただそれだけだ。
徐々に暗闇に順応してきた目がとらえたのはやはり、ベッドの上の女だった。そう、裸体の。何故服を着ていないかなんて語るまでもないだろう。


ただそのひとつを除けば、俺が知り得る限り岡野昭仁という男は正常であった。だがそれ故に、この異常はこの上なく異常なのだ。


俯いたままでいる岡野の傍らに、俺は紙袋を置く。一般人はけして手にすることはないだろう薬品がそこには入っている。



「死体と朝を迎えるつもりはないだろう?」


岡野は俺を見ずに紙袋を手に取りゆっくりと立ち上がった。そして女の死体をベッドから引きずり下ろし、
「…そんなつもりじゃなかったん」
と小さく呟いて、それごとバスルームへと消えていった。





俺は、笑う。声に出さず。


"そんなつもり"じゃなければ、一体他に何があるっていうんだ?


岡野は殺すのが目的ではない。目的の為に殺人を犯す。勿論その対象は女のみ。自らの欲求であるのに、正常でありたいと願う岡野はその行為を否定したがる。そうしたところで何も変えられないのに。
奴はもう完全に異常者だ。俺と変わらない(俺には"その"趣味はないけれど)。


上手く、殺すようになったと思う。本当に上手く。
以前までは真っ赤に染まっていたシーツも、今は綺麗な白のまま。血の匂いもしない。先程引きずって行った死体には、見たところ外傷はなかった。一体、どうやって殺したんだろうね。


明日になれば岡野はまたいつもどおり街を歩くだろう。身に纏うものが空っぽの"正常"であることに未だ気付かずに。



俺は知っている。暗闇の中、言葉と裏腹にあいつの口角は上がっていると。


俺も、笑う。声に出さず。


早く、もっと壊れてしまえ。









…奥からはじゅうじゅうと肉と骨が溶ける音が聞こえる。


東の空が明るくなる頃、もうこの部屋に、死体はないだろう。



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