戯言仮3

□意義
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あれ、何で殺されなきゃいけないの。
私を脅していた薬中の買人は頸動脈をかっ切られ即死。レイプしようと脱がしたはいいが私の下着を見る前に眼球に細い針が刺さって狂うチャラ男。元カレが恐怖で尿を漏らしている姿は滑稽にも程があった。
背の高い茶色い髪を持つ男が、全員こんな風にしたわけで、私は何もやってない。殺人犯が私を見て忽然とした表情で笑う。「…高橋だけでいいか」なんて呟きが聞こえた時には殺人犯は私の真後ろにいた。

「4人だし」

それ私入ってるよね。
あれ、死ぬのかい。短い人生だった。別に長生きしたって短い人生だったって思うけどね。だいたい100年って案外長いようであっというま。
大人しく諦めて目をつむる。正直言って生きてたって生きてなくたって同じなんだよ。誰からも必要とされない人間の人生なんて、丸めてポイッて。




今まで熱を持ってた背中が急に冷える。鳥肌が全身に立った

「やめた」
「はっ?」

つまらなそうにナイフをくるくると曲芸師のように回している殺人犯は、私をもう見ようともしなかった。
「つまんねぇ。帰る」
殺人犯はふらふらと明るい路地に出て、薄暗い空間で独り。元カレはいつの間にか額にナイフが刺さって死んでいた。眼球を突いてみる。ぐちゃって動く。えぐり出す。潰す。汁が出る。水晶体が煌めいた。

私はただ埃で淀んだ水晶体を指で遊んでいた。この際、ナイフで死んでもいいかなと思った。警察が来たときとかそういう考えは全くなかった。フィラメントが切れそうな非常灯を見てたら、眠くなっただけだった。

人が、いたような気がする。生きてる人間と、死体が。






ぐるぐるぐるぐるぐる
ループループ
回った







「白玉さん、何処に置きゃいいんですか」
呆れた様子の女は、金属で出来た籠を抱えて言った。
「その机よ」ぐいっと指をのばして書類で溢れかえってる台を刺した。長い髪が綺麗に靡いた。
「いや、…」女は言葉を失って「…随分と大切な書類っぽいですけど。見える名前が…大臣の名前…」
男はなりふり構わず女の籠を奪い取って「大臣が誰だろうと、わしには関係ないし」と大きな音を起ててそれを書類の上に置いた。
「置いちゃっていいからね」
「…了解」




「あぁぁ!!」
突然男が大きな声をあげて、叫んだ。そして女に心配そうに質問する。
「…今日手術入ってる?」
「ええ、どっかの芸能人さんが中絶です」
自前の赤のチェックのスケジュール帳を見る女が答えた。
「わすれてたー」
「知りません、白玉さん、あんたが悪い」
パタンとスケジュール帳を閉じるとテレビを付けた。消費税引き上げのニュースがやっていて、物価が上がると困るんだよなと女は思った。
「来たら、教えるんで。準備しといてください」
「はいはーい」
情けないようで頼りがあるようで、どっちつかずな声が扉の奥で聞こえて、小さく安心した。





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