BLEACH
□A good morning day
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朝もやから僅かに滲む朝日が、障子を透かして窓からこぼれている。
A good morning day
緩やかな目覚めは心地よく、まどろみのまま緋真はもう一度目を瞑った。
「起きたのか」
すぐ耳元からささやくように降ってきた声に、緋真は閉じかけた目をゆっくり開いた。
目の前には引き締まった白い胸、見上げれば、こちらを見つめる夜色の瞳。
「白哉さま」
愛する人の腕の中は何より安らげて、緋真は見つめ合ったままゆったりとほほ笑んだ。
朝の、こんな風な時間がとても好きだった。
隊長職と朽木家の当主職とで忙しい白哉は、屋敷に戻らないこともしばしばだ。
それでも緋真との時間を極力大事にしてくれて、出来る限り一緒にいてくれようとしている。
そんな白哉を、緋真は心の底から愛しいと思う。
「緋真が起こしてしまいましたか?」
「いや」
短い否定の言葉に緋真はほ、と息をついたが、起きていたという事は、寝顔を見られていたということだ。
緋真はほんのり頬に朱をのぼらせて、視線を下げた。
白哉の腕は安らげる。安らげるが、どうにも恥ずかしさや緊張を感じる時もまだある。
それでも、最初の照れてばかりでまともに目も合わせられなかった頃を思えば進歩だった。
「まだ早い。寝ているといい」
「いえ、せっかく早く起きれたんですもの。もう少し、このままで…」
言いながら、そっと白哉の顔をうかがう。
朝の光にぼんやりと照らされた端正な顔が、優しい空気をまとって穏やかに瞳を細めている。
緋真も、そっと微笑み返す。
こんなに柔らかな顔をする人を、どうして冷たい氷のようだなんて思う人がいるのだろう。
周りの白哉への評価を時たま耳にするけれど、緋真は首を傾げることが多い。
人々の、恐れや畏怖の勝る瞳を見るのが、緋真は切なかった。
こんなに、こんなに優しいひとなのに。
このひとを見つめるだけで幸せで、腕の中は暖かくて、甘くて痺れそうで、なのに安心できて、すべてを投げうって身を任せてしまいたくなる。
それを白哉が許してしまえる人だから、逆に緋真は自分を律していられる。
夜色の瞳をじっと見つめると、緋真自身が映っているのが分かる。
わたしを映してくれている。
その穏やかな瞳で、わたしを見てくれている。
それだけでいい、そう思えた。
今自分が噛みしめている愛しさや幸福を、確かに分け合えていると感じられるから。
「…緋真は、幸せ者でございます」
吐息のようにこぼれた言葉は、胸の奥底からにじみ出た幸せの色。
白哉の瞳が、よりいっそう優しげになる。
「お前がそうなら…私もそうなのだろう」
白哉の、男性にしては美しすぎると思う手が、緋真の頬をつつむ。
触れられると、やはり手の平からは刀を握る人らしい無骨な硬さを感じる。
手のひらから伝わる少し低めの体温が、緋真の頬と同じ温度にかわってゆく。
氷のようだなんてとんでもない、優しくて温かな、ちょうどこの朝の光のような人。
背中を包んでいた白哉の手に、ぐ、と力がこもって、更に引き寄せられる。
見つめ合ったままゆっくり近づいてくる夫の瞳に、緋真はそっと瞼を閉じた。
***fin***