The Prince of Tennis
□Should be tender for...
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玄関を、出ていく音がする。
行かないで、待ってと縋りたいのに、それが出来ない自分がいる。
立ち上がる事もできずに、扉の閉まる音を背中で聞いた。
Should be tender for…
「―――くの、桜乃?」
「…ぇ、リョーマく…?…あれ…?」
「やっと起きた。どうかした?よく寝てたけど」
数回まばたきをして、桜乃はようやくここが見慣れたリョーマの部屋だと認識する。
それから思わず、自分を覗きこんでいるリョーマに手を伸ばした。
迷うことなくリョーマはその手を取って、指を絡めて引き寄せてくれる。
夢の中の玄関の音も、遠ざかる足音も、まるで本物のように生々しく耳に残っている。
振り払うように、桜乃は小さくかぶりを振った。
こんな夢をみるなんてどうかしてると思いながら。
「もう少し寝かせといても良かったけど、桜乃、明日も大学行くんでしょ。そろそろ帰らなきゃヤバいんじゃない?」
「ん…ごめんね、わたし…いつの間に寝てたのかな…」
ちらりと時計を見れば、22時を半分ほど過ぎたところだった。
「来てすぐ。オレがちょっと部屋でて、戻ってきたら熟睡してた」
「うそ…あの…ごめんね、リョーマ君…」
「いーよ、別に。ていうかオレの膝かたくない?」
「…ひざ?」
言われて、ようやく桜乃は自分がリョーマの膝を枕にしている事に気がついた。
慌てて飛び起きようとしたけれど、クスクス笑うリョーマにそっと肩を押し戻される。
「あの、重いよね、ごめんね、あのっ…!」
今更何を恥ずかしがる必要もないのだが、やはり寝顔を真上から、それもずっと膝枕で覗きこまれていたかと思うと恥ずかしすぎる。
真っ赤になった桜乃を、リョーマがからかうような瞳で見つめるから、桜乃はますます動揺する。
「桜乃の寝顔なんて、いつも見てるんだけど」
「そうじゃなくて、もう…っ」
顔を隠したくても、リョーマと繋いだままの手ではどうにもできない。
とりあえず顔を背けようとしたら、繋いでない空いた方のリョーマの手に顎を捕らえた。
「逃がすわけないじゃん」
楽しそうに笑って近づいてくる端正な恋人の顔に、桜乃はもう、黙って目を閉じた。
瞼の裏の夢の記憶が揺り起こされそうで、目を閉じるのは少し怖かったけれど、触れ合う温もりは優しくて嬉しかった。
泣いてしまうかと、思うほどに。