SD

□悩み、そして驚き、
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「温かいうちにどうぞ」
「ありがとう、ございます…」


目の前に置かれたカップから柔らかな湯気が立ち上る。
鼻を擽るのは優しい香り
不意にまた、涙が出そうになった。
そっ、とカップを持ち上げて手で包み込むと、じんわりと温もりが染み込んでくる。
その温かさが凄く、凄く嬉しかった。


「少しは落ち着いた?」
「はい…」


ゆっくりと何口か飲んで。少し経った頃、穏やかに問い掛けられる。
取り敢えずはそれに怖ず怖ずと返事をしたが、思考がはっきりしだした今、少し危ない気がした。
だって先程名は教えてもらったものの、見ず知らずの人なのである。目の前にいるのは。
だが、直ぐに大丈夫だ、と思った。
母親と進路の事で喧嘩をして傘も持たずに飛び出した為にずぶ濡れ状態だったのに文句一つ言わず、家へ上げてお風呂を貸してくれただけではなく温かいお茶にお菓子まで出してくれたのだ。
悪い人ではない、と思いたい。
そもそも、誘われるままに着いてきた自分に拒否権はあるのか、わからなかった。
まぁ、そんな心配するだけ無駄だったのだが。


「良ければ、話聞くけど…?」
「へ?」
「悩んでいるなら吐き出した方が良いかな、と思って」


あまりにも優しい笑顔で見詰められ、動揺が拭えずに鼓動が高く跳ねる。
相手はかなり年配で結婚していると言うのに、だ。
実は、お風呂を借りた時に洗濯物の中に海南大附属高校のマークが入ったシャツがある事に気付いたのである。
そこからの推察だった。
けれど、それが間違っていたと知るのはこの直ぐ後の事で。


「ちょっと…」
「…ん?」
「進路の事で、悩んでて…」
「うん」
「あの、ぇっと…!じ、自分がどうしたいかもよくわからないんです!牧さんはどうやって進路を決めてきたんですか?!」
「んー…俺は高校はバスケが強いところを選んだけど……」
「大学や会社は?!」
「…え?や、俺まだ高校生なんだけど」
「は?…あ、ぇっ?!う!嘘っっ!!!」
「よく言われるけど、本当」
「うわわわっ!!!」


一頻り騒いだのちに、思わず目の前の顔をまじまじと見詰めてしまう。
゙確かに肌のハリツヤは良い゙なんて変な納得をしていると、牧が苦笑を浮かべていた事に気付いた。
焦る。焦る。焦る。


「ご!ごめんなさい!!えっと…、ぁの、かんろ、く?そう!貫禄があるから私より年上だって勝手に思っちゃってて!!だからね?老け顔とか思ってないですよ?!うん!大丈夫!!」
「はいはい。わかったから落ち着いて」


慌てて言い訳を始めるが、てんぱり過ぎて全く要領を得ていなかった。
が、穏やかに宥められて口を噤む。
鼻から出る荒い息が、非常に耳に付いた。
恥ずかしくて。恥ずかし過ぎて。自然と顔が赤く染まってゆく。
それでも、牧の柔らかな優しい笑顔が見れたからか、幸せだと感じていた。



そうして芽生えたのは
恋の蕾――…






















(牧。この間の3秒ルールと似たケースです。
降っているので使いつつ、一応恋の蕾が芽生えるまで、の流れですが…どーなんでしょ?
むー…相変わらず意味不明ですみません(汗))



初出し 2011/09/22 03:25


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