SD

□3秒ルール
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「バイオ……レー…ション?」


まだ誰もいない静かな教室に本を捲る音と、不自然な発音の単語が響いた。
明らかに本の内容が理解出来ていないだろう事が、その妙な発音と傾げた首からまるわかりである。
なのに諦めたりしないのは、近々体育の授業でその種目=バスケをするからだ。
そう。一生懸命熟読していたのはバスケットボールのルールブックであった。


「3秒ルール、って……」


実は、運動音痴な為に今まで体育の授業の度に無様な姿を曝していて。
だからこそ、次に行われるバスケでは少しでも上手に出来るように知識だけでも詰め込んでおこうと考えたのだ。
が、馴染みがなさ過ぎる横文字と小難しい解説が簡単に頭に入るはずがない。


「落ちてから3秒以内の食べ物は拾って食べられるとかいうやつ…?」
「ブフッ!」
「…ぇっ?!」


所々無意識に口から出しつつも必死に覚え込もうとするけれど、中々上手くはいかなかった。
それどころか、突然吹き出した声が聞こえてきたせいでビクッ、と身体を強張らせてしまう。
人にみっともないところを見られたくないから誰もいない早朝の教室で勉強をしていたというのに、だ。
動揺が拭えないまま慌てて周囲を見渡すと、いつからいたのか教室の入り口付近に浅黒い肌をした男性がいる事に気付く。
それは、


「ま、牧先輩?!」


3年生の中でもNo.1の知名度を誇る牧だった。
都市伝説の如くに語られる人物である為、知り合いでもないのに何故だか牧の情報は沢山持っている。
まぁ、その真偽がわからない事が問題ではあるのだが。


「すまない、邪魔するつもりはなかった」
「や!別にそんな事気にしないで下さい!」
「そう言われても気になる」
「うぅ゙!」


それでも、有名人に憧れている人間には十分に嬉しいもので。
笑われた原因も忘れ、思わず興奮気味に話し掛けていた。
短くても会話出来た嬉しさと恥ずかしさで、顔や耳だけではなく項までも真っ赤に染まってゆく。
脳内は沸騰気味だ。
だから、


「お詫びに教えようか?」
「ぇ?」
「バスケのルール」
「……は?」


だからこそ急に言われた言葉への反応が遅れる。遅れて、しまう。
半ば茫然としながら牧を見詰めていた。
そんな様子が面白かったのか、牧の口元が柔らかく緩む。


「そのルールブック読むよりもわかりやすく説明出来ると思うしな」


不意に穏やかな口調で齎されたのは魅惑的な誘い
心臓がドクン、と大きく高鳴った。
からからに口腔が渇いていたせいで何も言えなかったが、この期を逃したくなくて。無我夢中で頷き続けたのだった。



そうしてやがて
憧れは恋になる――…





















(牧。長くなりそうだった為にまたぶった切りました(笑)
えぇ、相変わらず意味不明です。
ただ3秒ルールを書きたかっただけなんですけどね?
ん。色々すみません(汗))


初出し 2011/07/26 05:37


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