SD

□焼餅とキス
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こっちを向いて
→くれないか?


モテる恋人に焼餅をやき、怒ったふりをしていたはずなのに柔らかな重低音に促されて。私はゆっくり振り返った。
と同時に優しく澄んだ瞳に出会う。
バスケをしている時とは違う穏やかな顔
ドクンッ、と嫌でも心臓が高鳴るのがわかった。
頬が、耳が、熱を帯びてゆく。


「まっ、牧く、ん…?」
「やっと可愛い顔が見れた」
「なっ?!」


それに気付いているのかいないのか。
牧はゆっくりと笑んだ。
とほぼ同時に伸ばされた手はとても大きくて。


「なっ、何言ってるの…?!」


齎された言葉に子供みたいに慌てる私の頬を軽々と包み込んでしまう。
そこから伝わる熱に心臓まで焦げてしまいそうな気がした。
だから、


「牧君視力落ちたんじゃないっ?!」
「落ちてないが…」


だから、焦げて煙を上げてしまわない為に反論しつつ身体を捩って逞しい手から逃げ出そうと試みる。
勿論そう簡単には上手くいかなかったが。


「落ちてる!私の事ちゃんと見えてないんだよ!!」
「や、可愛いて堪らない顔がクリアに見えてるぞ」
「私可愛くなんてないから!」
「俺には可愛くて、愛し過ぎて仕方がないぞ?」


逃げられないままどれくらい押問答を繰り広げた頃だろうか?
何故か当たり前のように私の額にキスが落とされた。
今まで以上に体温が上昇するのを感じる。
直ぐさま自分の手で額を押さえ、頭の中で面皰の有無に思考を巡らせたのは無意識だった。
そのせいで隙が出来てしまったのか、


「考えてる顔も可愛い」


今度は唇に唇を落とされていて。チュッ、と嫌がらせのように音が鳴る。
その音と愛しい人の笑顔に誘われるように思考をショートさせた私は、これ以上はまだ無理だというように意識を放棄したのだった。



あぁ!
きっと私の強がりを全て見抜いてる
そのせいで
私は貴方に絶対勝てない――…











バトン
初出し 2010/05/09 06:06


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