SD

□短めの話のバトン抜粋
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・香り


「ほら!これ着てろっ!!」
「…あ、ああ…」


寒くて身体が少し震えたのを見られたのか、彼が上着を貸してくれた。


「……馬鹿デカい」


羽織ると体格差が丸わかりだ。
それがこっ恥ずかしい。
緩みそうになる口元を手で塞ごうとした。
その途中
フンワリと香った匂いに、思わずドキッとする。


「……?どうした?」
「な、なんでもないっ!!!」
「なんでもないってことはねぇだろが?!」


紅くなっている頬を隠したくて、急いで横を向くが匂いはついてまわる。


「おいっ!!」
「なんでもないってばっ!!」


言えるわけがない!
貴方に後ろから優しく抱き締められている気がするなんて――…



バトン


・雷のようなあの衝撃は
→ま、まさか…まさか恋?


「くっだらねぇ…」

紅色に染まった頬を手で押さえながら妖しい笑みを浮かべる彼女に溜め息しか出て来ない。


「あぁ!あの脚線美が涎もんですよねぇ♪」
「……はいはい」
「お尻も良いっっ!!」
「……純粋さがねぇな…………」
「あ、ウエストのしまり具合も良いなぁ♪」
「…………………」
「ちょっと先輩!ちゃんと聴いてますぅ?」
「………聴いてるよ」
「あ、良かったぁ!!この間冷蔵庫に入れてあったプリン勝手に食べちゃったから、怒って無視してるのかなぁとか思っちゃった♪」
「えっ?アレお前かっ!!楽しみにしてたんだぞ!!!プリンっっ!!!!!!」
「安心したぁ!!先輩はんな事で話を聴いてくれなくなるような人とは違いますよねぇ♪」
「…って!待てっっ!!!流すなっっっ!!!!」
「あっ!!項も艶っぽいですねぇ♪」
「人の話を聴けっっっ!!!!」
「……先輩…怒り過ぎると血管切れちゃいますよ?大丈夫です。私ちゃんとわかってますから!!」
「…本当かよ?!」


どうしようもなくうさん臭く感じてしまうのは俺のせいじゃねぇよな?
うん。絶対ちげぇっっ!!!


「はいっ!わかってますっっ!!!大丈夫ですよ?先輩のお尻も良い味出してますからっっ!!!!!」
「やっぱり全然わかってねぇっ!!」
「あ、目も素敵〜♪」
「うるせぇっっ!!!」
「あぁ!やっぱり、これは恋だったのねぇ〜♪」



バトン


・朝なんてこなければいいのに
そう願うのはこんな私を見られたくないから……



「ブッ!!クククッ!!オメェ前髪短くし過ぎだろっ!!」
「煩い!差歯っっ!!」
「あ゙?!なんだと?」
「ヤンキーのくせにヘタレで体力ないって言ったのっ!!」
「もう不良じゃねぇっ!!」
「…ヘタレは否定しないんだ……」
「っっ!ウッセェッッッ!!」


恋人同士の筈なのに、一向に仲良く出来ない。
だけど、絶対それは寿のせいだ!!
自然と頬が膨れ、涙が溢れそうになる。


「っ!短いけど、呪いの市松人形みたいで可愛いぞっ?!」
「……………………………」
「おっ…おい?」
「……嫌がらせ…?」
「な!なんでだよっ?!」
「だって…呪いの市松人形って……」
「や、髪が急激に伸びそうだろ?」
「………莫迦…?」
「誰が莫迦だっ!!」
「……クスッ…」


フンッと鼻をならして横を向く寿に思わず笑いが込上げる。
きっと私が泣きそうになってたから一生懸命言ってくれたんだろうけど……
慰め方が間違い過ぎている。
でも、私はこんな不器用な優しさに惚れたんだってフッと思い出した。
なんだかとても胸が温かかった。



バトン


・遠ざかる君の、
君の背中を見ていた。

いつか、
いつか必ず戻ってくれると信じて……
信じて…………


「……莫迦…」


なのに、彼は戻らない。
あれから二年近く経とうとしているのに……
まだ、戻らない…。


「………莫迦寿……」


寿が昔捨てていったバスケットボールを軽く転がした。
コロコロとゆっくり進む姿は哀愁を漂わせ……
持ち主を探して彷徨っているように見える。


「……早く…早く…早く………寂しいよ……」


既に止まってしまったボールを強く抱き締め、小さく漏らした言葉はボールのためか、自身のためか……
決めれぬうちにボールには多数の水滴が零れ落ちていった。



彼女の望みが叶うまで
後…三日と少し―――……



バトン


・グラスの中の
彼はキラキラと光り輝いていて……
誰よりも綺麗で格好良かった。


「………三井…先輩……」


オペラグラスから目が離せない。
離したくない。
妖しく見えたって構わないのだ。
先輩がよく見えるなら……
どう思われたって構いはしない。

キラキラ輝く彼はスーパースター
私の……
私だけのスーパースター――…



バトン


・大きな背中に
→ギュッとしがみつく。

温かくて優しい匂い。
逞しくて真直ぐな彼。
失いたくないもの……


「…どうした?」
「…なんでも……」
「ないことはねぇだろ?」
「……クスッ…」


振り向いた寿の心配げな表情が嬉しくて…
思わず口元が緩む。


「何笑ってんだんだよ…?」
「…なんでも……」
「ないことはねぇだろ?」
「……クスッ…」
「おいっ!!」


不機嫌丸出しの顔でこちらを睨みつけられても、全く怖くはなかった。
イライラと身体を揺する寿が愛しくて抱き付いたまま頬擦りすると、少し落ち着いたのか、寿は黙って前を向いている。


「私ね?きっと生きている間ずっと寿の事が好きだと思う。だって『寿命』は私にとって『ひさしいのち』と読めるからさ…」
「っっ?!」
「本当だよ?」
「………そうかよ……」
「そうですよ♪」
「……そうか…」
「そうそう♪」
「………………………………」
「……だから…絶対…絶対離さないでいて…?」
「……あほう…」


そんな寿にポツリッと漏らした本音には色良い返事がきちんと音として聞けはしなかったが、微かに「言われるまでもねぇ…」と聞こえたような気がするのは私の自惚れではないはず………
寿の真っ赤に染まっている耳を見て…そう思った。



バトン


・手を伸ばしたら
→愛しい温もりに届く。

でも…、温もりに触れる事はない。
ほんの少しの間は心が触れ合っていない為に埋まることがないのだ…。


「三井はさ…好きな娘いるの?」
「あ゙?なんでんな事聞くんだ?」
「うーん…なんとなく……?」
「何故に疑問系?」
「なんとなく…」
「またなんとなくかよ」


苦笑する愛しい人
ただ…ただ席が隣りなだけの関係
その距離を少しでも縮めたくて、やっと出来た重要な質問の答えは、自身の気持ちを伝えるのが怖くてはぐらかした為に聞けそうにない。


「うん。なんとなく」
「はいはい」


自身を『莫迦だ間抜けだ』といくら心の中で罵っても、自分の気持ちを話す勇気は出て来ない。
自分ではこれ以上どうすることも出来なくて…
整った漢らしい顔から目を逸らした。


ああ…
嘘だよ……

『なんとなく』なんかではなくて……

貴方が……
貴方が好きなの――…


言えない言葉が、伝えられない言葉がさらに私と三井の間に厚い壁を強固にしたような気がした……



バトン




初纏め 2010/03/07 23:57

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