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□ふたつの影
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「莫迦寿!」


ああっ!本当に莫迦莫迦莫迦莫迦っっ!!
イライラしてズンズンと歩いてゆく。
何も考えず…ひたすら歩いてゆく。
が……


「もう知らないんだか……っ?!」


後ろから大きくカタンッとなった音に身体が思わず飛び上がる。
ゆっくり振り返ると、そこには怪しげな夕日に誘われて出来た不気味な自身の影や草木の陰などが幅をきかせていた。


「なんともない…なんともない……っと…」


何も気付かなかったふりをしようとしながらも先程よりも足早になってしまう。
今まで気にも止めなかった草木が揺れる音や風の冷たさに心音が早まった。


「っっ〜!」


そして…ただでさえ跳ね上がっていた心臓は、後ろから聞こえ始めた足音に壊れてもおかしくない程轟いていく。

嫌だ嫌だっ!気のせい気のせいっっっ!!

いくら自身に言い聞かせても身体が強張ってゆくのを止められない。
我慢出来なくて自然と駆け出していた。
だが、それについて来るみたいに後ろの足音も早くなる。
怖くて怖くて堪らなくて。一生懸命動かしていたけれど、地面の凹凸に足をとられて転んでしまった。


「おいっ!大「っっっ!嫌ぁっっ!!!」


とほぼ同時に後ろから肩を掴まれる。
直ぐさま堪えきれない恐怖心が背を駆け抜け、後ろにいるものから逃げる為に目茶苦茶にもがく。


「嫌っ!嫌っ!助けて寿!!嫌っ!!」
「ちょっ!落ち着「嫌ぁぁっっっ!!」
「チッ!」
「ん゙?〜〜〜〜〜!!」


いつの間にか叫んでいた唇を何かで塞がれて…
息が苦しくて自然と身体がグラグラと傾いだ。
だが、逞しい腕が支えている為倒れることはなく……


「大丈夫か…?」
「…ひ…さ……?」


耳元で優しく囁かれた言葉に身体から力が全部抜け落ちてゆく。


「ん?」
「……………た……」
「おい?」
「…………わった……怖…かった……怖かっ………」
「…………………………」


ギュッと子供みたいにしがみつく私をいつの間にか現われた寿が優しく撫でてくれていた。
その時チラリと見えた自身の影は寿の影と合体した為か先程よりも大きく見えたけれど、全く怖くはなくなんだか嬉しくなっていく。
ひとつの影では細く長く伸びてなんだか怖いけれどふたつの影が絡まった大きな影は安心出来る……
でも…きっと安心出来たのは、そのもう一方の影が数分前に大喧嘩して「嫌い」と言い別れた寿だったからなんだろうと思う自身の現金さに口元が緩んでいくのを止められそうになかった。




(オマケ)


「……って待って!!さっき…キッ…!キスして……!!」
「不可抗力。騒ぐと近所迷惑だし……落ち着かせようと……」
「し、舌はっ?!舌まで入れっ…!!」
「あ〜〜…不可抗りょ…グッ…!」
「そんなわけあるかっ!!」
「…オ、オメェ……腹にボディブローかますたぁ…良い度胸だな……」
「知らない!莫迦寿っ!!」

















バトン
初出し 2008/10/17 22:40
改訂 2013/06/24


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