銀魂
□例
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「取りあえず印象深い人を一人思い浮かべてみてよ」
「ぇっと…難しい、ですね」
賑わっているが煩くはない店の中。薄暗い照明に照らし出されている天井や壁を白い煙がまた汚してゆく。
グラスに注がれた酒を持ち、煙草を銜えたまま偉そうに椅子に踏ん反り返っている男に笑顔を見せながらも内心で妙は舌打ちしていた。
苛立たしくて。少しの間男から意識を逸らしてしまう。
「浮かんだ?」
「…ぁっ………」
ふっ、と齎された声に我に返れば自身の想像以上に間近から顔を覗き込まれていて。妙はその近さに息を飲んだ。
どうしても歪んでしまいそうになる口元を軽く手で覆い隠す。
けれど、
(印象深いっていったらやっぱりゴリラよね……)
けれど、ホステスとしていつまでもそのままでいるわけにはいかず
「えぇ…一応……」
再度作った笑顔を貼り付けた。
褒めたたえるように琥珀色の酒の中で透明な氷がカランッ、と澄んだ音を響かせる。
「それは誰?」
「……それは…」
思い浮かべた人間の名を素直に口に出せずに口籠れば、男は軽く溜め息を吐きながら笑った。
「クスッ…まぁいっか。君の好きな男を直に告げられたら僕の硝子ハートがブレイクンしちゃいそうだからね♪」
いや、ニヤけたと言ったほうが正確か。
(硝子ハートがブレイクン〜〜?ケッ!気持ち悪っっ!!)
頑張って笑顔を維持していても自身のこめかみがひきつっているのを妙は自覚していた。
「すみませ〜ん♪」
「良いよ、別に」
「ありがとうございます♪」
「クスッ。構わないよ♪えっとねぇ〜…次はその人を何かに例えてみて」
「……ぇ…?」
「そうだな…雨とか炎、花とかそんな風に……」
だが、有名な占い師でかなりの上客だから問題を起すなと店長に涙目で頼まれていた事を思い出して。なんとか怒りを打ち消し打ち消し考える。
(ん〜暑苦しいから……)
不意に脳内を占めだした近藤は満面の笑みを浮かべていて。
(真夏の…)
柳眉が跳ね上がった。
だが、何故だかあまり深く考え込むより早く妙の口から勝手に音が零れ落ちてゆく。
意外にもはっきりとした声音で。零れ落ちてゆく。
「太陽、かしら…」
「ほぅ…?」
すると、男の逞しい眉がぴくりっ、と跳ね口元が更に緩んだ。
(…な…に……?)
ふっ、と嫌な予感がして。眉間に皺が寄ってしまう。
「可愛いレィディ…君はその太陽に例えた男が好きで好きで堪らないんだね」
「はっ?!」
「太陽は活力や指導力、権威、父性などを表しているんだよ。それでね?女性が例えで太陽をだしたならそのレィディは父性を感じさせる男に強く恋い焦がれているって事なんだ」
それはキザったらしく自身の髪をかきあげた男によって肯定の言を授けられたのだが、理解出来なくて、というよりはしたくなくて。妙はフリーズしてしまった。
男にしては艶やかな黒髪が妙の止まった思考を嘲笑うように男の手中からサラサラと零れ落ちてゆく。
「君の心にはもう誰かが住み着いてしまってるんだね…ベイヴェ……」
わざとらしく溜め息を吐き出しながら静かに呟いた男は煙草を揉み消した後、持っていた酒を呷った。
ごくっごくっ、と動く喉を妙は呆然とただ見つめる事しか出来なくて。
(ちょっ…!有り得ない!有り得ないからっっ!!)
只管脳内で繰り返していたのは否定の呪文
からになったコップを男が机に置くと同時に小さくなった氷が揺れる。
いつも座り慣れているはずのシートが身体に酷く食い込んでいる気が、した。
うさん臭いが有名な占い師
その占いを信じるか信じないか…
それは本人次第――…?
(妙+…。アレ?おかしいな……。路線がずれまくりです。
近藤さんと絡ませるはずだったのに……長くなったので途中でぶったぎりました(^◇^;)
相変わらず意味不明です(笑))
初出し 2010-01-11 05:34
改訂 2012-09-02