銀魂

□暖
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「クシュッ…!」


四月も下旬だというのに冷たい風が吹抜け、妙の身体はあまりの寒さに震えた。
仕事終わりの為に疲れもあり、どうしても歩く速度が遅くなる。


「お妙さん」
「……ぇ…?」


いつも近藤が後をつけていることに、気付いてはいた。
だが、近頃相手にするのが面倒くさくなって。自身に害が及ばなければ妙は無視を決め込むようにしている。


「風邪、ひきます」


今日も後をつけられている事に気付いてはいたが、あまり近付いて来ないので放置していた。
しかし、不意に身近に気配を感じたとのとほぼ同時にフンワリと温もりも感じた妙は、驚きに瞳を見開く。


「………くさっ……」
「す、すみませんっ!一日中着ていたものでっ!!」


震えていた肩にはいつの間にか黒の隊服
埃と汗の匂いが鼻を刺激して柳眉を寄せると、近藤の男らしい眉が情けなく垂れ下がった。
その表情が鬱陶しく、妙は重い溜め息を吐き出す。
樹々が…揺れる。
ザワリッ と揺れる。


「……寒くないんですか…?」
「大丈夫ですっ!俺暑がりなので…!」


ぽつりと零した問い掛けに、まるで弾かれたように近藤が笑みを浮かべた。
うさん臭いほど白い歯がキラリと光る。
右手を高々とあげて拳を握り締めて見せた近藤に、妙は暑苦しさを感じた。


「…替えの隊服……」
「え?」
「替えの隊服あるんですか?」
「は、はぃ…?」


問われた意味がわからずにきょとんと近藤は瞳を丸くする。
妙はニッコリと優雅に笑って見せた。


「洗って返します」
「えっ?!良いですよっ!!そんな…」
「良いのよ。だって変な扱いされたら嫌だもの」


言うべき事は言ったとばかりにさっさと歩く速度を速める妙に近藤は焦ってついて行く。
砂利を踏む音と激しい息遣いがやけに響き渡った。


「っ!そ、そんな変な事はしませ「黙りなさい。ゴリラ」
「お妙さ「ウホウホ煩いわ」
「え、ちょっ、まっ……」


追い縋る近藤
それを振り払う妙
間は一向に縮まらず…


お妙さぁぁぁ「喧しいっ!」……ヘブッ!」


家の中までついて入ろうとした近藤を妙が笑顔で殴り倒す。
変な声をあげて転がってゆく近藤を横目に、妙はさっさと戸を閉めたのだった。
だから、


「……ありがとうなんて言ってやらないんだから…」


だから自身の部屋に向かう妙の足取りが意外なほど軽いことや、近藤の隊服の襟に顔を埋める妙の瞳が物凄く優しいことを…
近藤は知らない――…
























(近妙。何故まだ寒いのでしょう?もうすぐ五月だよね?)




初出し 2009-04-30 02:05
改訂  2012-08-29

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