銀魂

□傘
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「…フゥ……」


シトシトと空からは雨が休むことなく降り注ぎ続けている。
人は水がなければ生きてはいけぬ生き物だ。
だから降るなとは言わないが妙はかなりの疎ましさを感じていた。


「…濡れて帰ろうかしら……」


それは偏に買い物中に傘を盗まれ、庇の下でかなり無駄な時間を過ごしたからにほかならない。
店に戻り傘を買おうかとも考えたのだが、家に帰ればまだ数本ある事を思い出して無駄な出資は控えた。


「仕方ない、わよね…」


勢いが弱くなることはあるものの止む事はない。
妙はこれ以上待つのを諦めて一歩踏み出した。


お妙さぁぁぁぁぁんっっっ!!


と同時に聞き覚えがある声が周囲に響き渡る。
休みなのだろうか?
萌葱色の袴を着、番傘をさした近藤が笑顔で走り寄ってくる。
一瞬で眉間に深い皺が寄ってゆくのを妙は嫌でも感じていた。


「お妙さん♪」
「あら、こんな所にゴリラが…早く動物園に連絡しなくちゃ……」
「ちょっ!待って下さい!近藤です!!貴女の近藤勲ですっ!!」


だが、話しかけられるや否や目は笑っていないが笑顔を浮かべたのはもう条件反射といえよう。
焦った顔で話しかける近藤を妙は冷ややかな眼差しで見つめていた。


「アラアラ♪不思議だわ♪私にゴリラの知り合いなんていなかったはずだけど…『貴女の』って何かしら……不思議よね?ああ…でも私のなら私が『消えろ』って言ったら勿論消えるんでしょうね?」
「お妙さ「ねぇ?消えるんでしょう?」
「おた「消えるんで…しょう?」
「……………………………」


言葉を発する事を赦さないかの如く笑顔で圧力をかけてくる妙に近藤は既に涙目で……
その表情のあまりの酷さに妙の口から思わず重い溜め息が零れ落ちる。


「消えないなら家まで送ってください」
「えっ!良いんですかっ?!」


そのまま放置しておくことも出来ずに声を掛けた瞬間、近藤のお尻にブンブンと振られている犬の尻尾が見えたような気がした。

(可愛くなんてないっ!)

満面の笑みを浮かべている近藤に妙はたじろぐ。
だが耳に熱が集中していくのが止められない。


「傘がないからですっ!でなければ一緒になんて誘うわけないでしょう!!」
やったぁぁっ!お妙さん!早く一緒に帰りましょう!!
「ちょっとっ!聞いてるんですか?!」
相合い傘♪愛々傘♪
「近藤さんっ?!」
ラブラブ傘♪恋人傘っ!!


ワクワクと大きな身体を落ち着きなく揺らしている近藤に妙は再度溜め息を漏らす。
でも何処か優しさを含んでいて……


「…荷物、全部持って下さいね……?」
「はいっ!」


今でもシトシトと降る雨は止まないけれど、妙はもう疎ましいとは思わなかったし思えなかった。
二人の間の空気はただ穏やかに流れてゆくのだった。

























(近妙。昨日沢山雨が降ってたのと誰かに相合い傘→愛々傘→ラブラブ傘って脳内変換して欲しかったから……
恥ずかしげもなく言えるのが近藤さんしか浮かばなかった(笑)
相変わらず意味不明)




初出し 2009-04-16 00:40
改訂  2012-08-28

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