企画

□紛らわしいゴリラ
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いつもと違う雰囲気
それが不意に訪れたら……?





紛らわしいゴリラ





_____________





お妙さぁぁぁ「喧しいっ!」……ヘブッ!!


大きな声をあげて飛び付こうとした体格の良い近藤が、華奢な妙に殴り飛ばされる。
綺麗に吹っ飛びゴロゴロと転げて行くのを見つめていた土方は重い、重過ぎる溜め息を吐き出した。

(相変わらず懲りねぇなぁ…)

先程までは自身の間近にいたはずなのに150mは離れていた妙の側に一瞬で移動しているのだ。
毎度の事とはいえやはり驚いてしまう。


「おいおい。ゴリラでも一応俺らの大将なんだ。ちったぁ加減しろや」
「あら♪所有権を主張されるならきちんとあのクソゴリラに首輪でもしておいたらどうですか?」


手を軽くはたいている妙にゆっくりと近付いた土方は気怠げに懐から煙草を取り出した。
対する妙は冷たい瞳ではあるが満面の笑みを浮かべている。


「首輪って……」
「クスッ、他に何が必要かしら♪」
「……………………………」
「ねぇ…?何が必要かしら……?」


笑顔のまま問い掛けてくる妙に何か言おうとは思うものの、反論も特に浮かばず土方は後頭部をガリガリと掻いた。
そして重い溜め息を一回


「あんたの好みと違い過ぎるか…?」


そう、話を変える合図みたいに重く息を吐き出した。
軽く瞳を見張る妙
だがそれも直ぐに笑顔の中に隠される。


「そうですね…だれがどう考えてもゴリラに飛び掛かって来られるより真面目に名前呼んで《愛してる》とおっしゃって下さる方のほうが良いと思いますが……土方さんは違うのですか?」
「……………………………」
「土方…さん?」
「…ぁ…ぃゃ……」
「……あぁ…土方さんはゴリラ溺愛症候群でしたわね……」
「…なんだそりゃ……」


妙の尤もな言葉に反論出来ずに一瞬口籠るが、理解したくない言葉に思わず音が土方の口から漏れでた。
眉間に深い皺が寄っていきそうになる。


「だってそうでしょう?土方さんゴリラを溺愛してらっしゃるから…」
「してない」
「あらあら♪ご冗談を……ゴリラが「妙」好きで好きで堪らな……ぇ…?」
「ぁ゙?」


笑顔の妙と無表情を貫こうとする土方
不意に二人の身体が強張る。
何か違和感を感じた為だ。
それを理解する前に妙の頬に大きく温かな手が軽く添えられていた。


「妙…」


その手はいつの間にか側に来ていた近藤のもの
そして気付く。
先程の違和感の答え
会話中に低い声音で呼ばれた敬称なしの妙の名
近藤の、低い近藤の声での呼掛け…


「…ぇ…ぁの……」


恐る恐る近藤に視線を向けた二人が見たのは、妙が一度も見た事がない、そして土方も有事以外ではあまり見た事がない真面目な表情
真直ぐな眼差し


「好きだ…愛してる……」


静かになった場所に響く戯けてない低く穏やかな耳に心地良い声


「こ、近藤さ…ん……?」


近藤の全てに反応したのか……
妙の瞳は潤み、頬と言わず耳も項も身体全てが熱を帯び緋に染まってゆく。

(おいおい…!良い感じじゃねぇか……)

見つめあう二人の周り、というか妙から発せられる桃色の照れた雰囲気
突然の状況に驚きつつも邪魔をしないようにそろそろと土方は距離をおいた。


「なぁ〜んて…お妙さんの言葉通りにしてみましたが柄じゃないっすよねぇ〜〜!」


いや、゙おこうとしだといったほうが正しいか……


「ね?お妙さん♪」
「「…ぇ……」」


離れるより早く近藤の口から発せられた言葉に二人の口は驚愕に開かれ硬直してしまう。
それには気付かないように照れ笑いし、妙の頬から離した手で後頭部を掻く近藤には先程までの真面目さや凛々しさはない。


「…………………ょ…………ラ…」
「はい?」


いつの間にか俯いていた妙がポツリと呟いた言葉を聞き取ろうと嬉しげに笑ったまま近藤は妙との距離をつめる。
吐き出した吐息はどちらのものかすらわからなくなる程の距離


「……………い……だよ……………リラ……」
「え?」
紛らわしいんだよ!このクソゴリラッ!!
「ブフッ!」


それでもきちんと聞こえなくて更に寄ろうとした瞬間近藤の顎にきまる華麗な右フック!
いつものように、いや、いつも以上か…
綺麗に吹っ飛び、近くにあった看板に当り近藤は地面に頭から落ちた。


「…すげぇ……」


そんな近藤を労る事なく妙は素早く歩き出す。
引き止められるような柔な勢いではなく、周囲の人間が思わず道を開けるほどであった。


「…な…なん…で……」
「紛らわしかったからじゃねぇ?」


泣きながら呟き気絶してしまった近藤を見つめ、土方は重い溜め息を吐き出し持っていた煙草をやっと銜えた。

(『だれがどう考えても』ねぇ……)

だが、直ぐに楽しげな笑みを浮かべる。
自身の質問に《私は》と言わなかった事と先程勢い良く去っていく時に見えた妙の耳の緋さを思い出したからだ。
込み上げてくる笑いを隠そうともせずに土方はゆっくりとマヨネーズ型のライターで火を点け静かに吸い込んだ。


「…今日もいー天気だ……」


煙は天高くのぼり、蒼空に溶けて消えてゆく。
それを満足げに見送り、土方は近藤を回収する為の車を呼ぶべく電話に手を伸ばすのだった。











アレ。きちんと土方さんの口調がわからない(←今さらかよ…)
そして、相変わらず最初に考えていたのと違う……
もっと力量が欲しいっ!




→その後のお妙さん(笑)
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