企画

□言えぬ想い
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「あの……」
「はい?」


聞き慣れぬ美声
だが明らかに自身を後ろから呼び止める声に勲はゆっくりと振り返った。


「どうかされましたか?」


一目で高級とわかる古代紫の生地に白色の桜が舞う着物
それが違和感なくしっくりと似合う美人が一人、若干強張った面持ちで立ち尽くしていて……
勲は緊張しながらも彼女に不安を与えぬように笑みを浮かべた。


「っっ…!」
「?」


と同時に女性の頬が仄かに色付く。
十四郎や総悟みたいに美麗ではなく若干武骨な感があるとはいえ勲の顔は整っているし背も高い。
本人は全く気付いていないが普通にしていれば格好良いのである。


「もしかして気分が……」
「…ぁっ!」


自身に見惚れて固まってしまったとは気付かずに勲は心配で女性の顔を覗き込む。
その距離があまりにも近くて…彼女は恥ずかしさのあまりのけ反り体勢を崩した。


「キャァッ!」
「っ?!危ないっ!」


だが、素早く伸びた勲の手が女性の腰をきっちりと抱き留めて引き戻した為彼女の身体が地面に叩き付けられる事はなかった。
しかし反動で前に来過ぎた女性は倒れまいと無意識に勲の腕部分の隊服を掴む。


「だ、大丈夫ですか?」
「っ!……えぇ…」


その為、彼女が逞しい腕にすっぽりと包まれていると気付いたのは良く通る低い声が耳元で聞こえてからで……慌てて身体を少し離す。
自身の手の中で勲の隊服に激しく皺が寄っている事に気付いたがなんとなく離しがたくて、少し力を緩めながらも隊服に触れたままでいた。


「申し訳ありません…ご迷惑をおかけして……」
「いえいえ…大丈夫ですか?お怪我は……」
「だ、大丈夫です…」


心配げに自分を見つめる勲の瞳に優しさを見出して嬉しさで女性の口元が緩む。
勲もつられたように笑った。
そんな二人がきちんと離れたのは勲が少し離れた位置で固まっていた妙を見つけ、妙に近付いてからで…


「お妙、さん?どうしました…?」


普段とはあまりにも違う妙の様子に心配になり勲は無意識にゆっくりと手を伸ばす。


「お妙さん?」
「……………………………」
「おた「触らないで下さい!」
「……ぇ…?」


手はいつも通り振り払らわれるが威力はほとんど感じられなかった。
それでも……


「いつも言ってますよね?ゴリラとは付き合えませんと…!」


それでも今にも泣き出しそうな瞳の妙にどうすれば良いのかわからなくて勲の身体は固まる。
動けなくなる。


「大っ嫌いなんですっ!!いい加減にして下さいっ!!!」
「っ!」


自身が無理矢理触れてしまえば妙の何かが壊れてしまう気がして何も言うことが出来ない。


「それでは失礼します」


その間に言いたい事は全て言ったとばかりにさっさと踵を返し歩き始めた妙を止める術ももたず……
勲は黙って拳を握り締めるのだった。


「……良いのですか…?追いかけなくて…彼女さんでは……?」
「いえ…違いますよ……」
「ですが…「何か!……何か私に用事があったのではないのですか…?」
「…え…えぇ……」
「どうされました?」
「あの…その……道に迷ってしまいまして………」
「なら行きたい場所までご案内しますよ?さぁ、行きましょう……?」
「……はぃ…」


だから自身に声を掛けてきた女性に嫌な事を穿られる前に勲は笑い顔を顔に貼り付け、話題を変えて歩きだす。
だが晴れ渡る空に比べ今の勲の瞳は何処までも…何処までも暗かった。








(近→←妙。企画にアップした文の近藤さん視点。ナンシー様に捧げます!
相変わらず意味不明(笑))



初出し 2009-04-07 00:47
改訂  2012-08-28
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