企画

□モノの価値
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相手からのおねだりに便乗すれば良いはずなのに、変化が怖くて中々素直になれない人間にはチャンスがあっても行動に移すのが難しいものなのだ
そう。変なプライドがただただ邪魔をする――…





モノの価値





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「お妙さぁ〜〜ん!!」
「しつこいっ!」


本日はバレンタインデー
朝早くからしつこくチョコレートをねだってくる近藤に右ストレートを決めたのは今日何度目のことになるのか、素直になれない妙にはもうわからなくなっていた。
今は仕事中。゙すまいる゙でのバレンタイン企画で来店客に手渡ししているチョコレートは勿論義理チョコである。
だから、


「ゴリラにチョコは必要ないです」


だからこそ近藤には渡したくなかった。
さっさと言い訳を考えて準備したもの―気持ちがばれると恥ずかしいのでチョコレートではない―を渡せば良いのだが、照れくさ過ぎて実行に移せない。
ねだられているうちに渡さねば絶対渡せないとわかっているのに、だ。


「ほんと図々しい!」


わざと悪態をついて。殴ったせいでソファーからずり落ち、床に蹲ってしまった近藤を冷やかに見下ろす。
痛そうではあるが後遺症は残らないだろうと今までのストーカー近藤対策から判断し、心中で少し安堵した妙はさっさと踵を返して控え室に向かった。
そして、


「ゴリラにはバナナで充分です!!」


そして、直ぐさま店内に戻ると宣言通り持ってきたバナナを1本投げ付ける。
綺麗に近藤の頭にヒットして、胸と膝によって出来た隙間へと着地した。
それに気付いているのかいないのか、
それとも気にしていないのか、


「これだけあれば良いでしょ」


持ってきた残り9本の房はついていないバナナを机上に置きつつ近藤を睨み付ける。
その後ろで他の客達が可哀相だとかボソボソ呟いていたが、妙は全部スルーした。
酒を飲み、会話を楽しんでいるからだけではなく室内を薄暗いめにセットされていたせいで少数だったが、そんな妙の耳の縁が真っ赤に染まっていた事に気付けた者はいる。
けれど、


「文句は言わせません」
「言いませんよ!文句なんて!!お妙さんから貰えるだけで嬉しいです〜!!」
「その辺の木に生えてたのを適当にもいできただけです」
「それでも、です!ありがとうございました♪」


けれど、実はそのバナナが高原栽培された最高級バナナである事に気付いた者はいなかった。
高地で栽培されているために栄養価が普通のバナナより高く非常に濃厚な味わいで。1本だけでも今日゙すまいる゙で配られていた義理チョコよりも値段が高いのである。


「ホワイトデーは30倍返しですからね」
「…ぇっ?!30倍?!」
「当たり前です」


が、そんな事はおくびにも出さずに妙は淡々と言葉を紡いだ。
そのせいで今日も特に近藤との関係が変化する事なく過ぎてゆく。


「取り敢えず今はドンペリ2本、お願いしま〜す!」


しかし、今の距離が心地良い妙は腐る事なく柔らかな笑みを浮べたのだった。
































(近妙。゙誰もチョコレートはもらわない゙企画の一つ。
最初考えていたのとずれてずれてずれて。結局何がしたかったのかわからなくなりました(汗)
すみません…)






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