SD

□短めの話のバトン抜粋
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・恥ずかしいけど
→言うわっ!!
言わせてもらうわっ!!


「あ、あの……」
「あ゙?」


躊躇いがちに呼び止めた私へ眉間に皺を寄せたままその人はこちらを向いた。
顎に傷はあるが…というか、その傷も含めて魅力的な精悍な顔、上背もあり逞しい身体の彼はありとあらゆる女性にモテるだろう。
だからこそ……
だからこそ早めに言わなければならないのだ。


「なんだよ?俺忙しいんだけど…」
「…あっ……」


真実を…………


「…あのっ!!!」
「だから何?」
「…ボンの……ズボンのチャック全開ですよっっっ?!」
「……………………………」
「……………………………」
「…な゙っっっ?」


彼の為に――…



バトン


・迷路の中で
→惑う心……
本当は今直ぐにでも泣きだしてしまいたい――…


「触らないでっ!嫌ぁっ!!」
「っっ…!」
「嫌、嫌、嫌、嫌、いドンッ!
「わかった。もう二度と触ったりしねぇから…黙れ」


錯乱していた私は、三井君が壁を殴った音と感情が籠らない声音に我にかえる。
だが、冷たい、何も映していないような瞳に身体が震えた。


「じゃあな…」
「あ……」
「…クッ…同じクラスだから逢う事はあるけど、心配しなくても話しかけたりもうしねぇよ…わざわざ嫌いな俺と話す必要はねぇ……」


教室から出ていこうとする三井君に声が漏れたのはそれが自身の望んだ答えではないからだ。
そうわかっていても、口からきちんとした言葉は出てこない。

違うのに…
そうじゃないのに……
ただ……貴方に触れられると心臓がバクバクし過ぎてわけがわからなくなって……
落ち着かないだけ。
血が沸騰して頭が上手く回転しなくなるだけ。
どうして良いかわからなくなるだけ……
だから触れて欲しくないの。
自分が自分でなくなりそうだから……

でも……
貴方の顔が見れないのは心が痛い……
痛くて痛くて……寂しくてたまらないの……
好き、だから……

頭に渦巻く言葉は沢山あるのに一つも音にならない。
三井君が出ていき独りになった教室に差し込む夕日は酷く禍々しく感じて……
崩れそうになる身体をスカートを握り締めることによって必死で堪えた。



バトン


・留守番電話に
→吹込まれた三井の声を消せずに何度もリプレイしている。

忘れたくないから……
何度も何度も聞き続けている――…


「……莫迦…みたい……」


ポツリと漏れ落ちた言葉は誰に聞かれることもなく、太陽が沈んだ暗い部屋へ溶けてゆく。
再生が終わった電話から冷たい機械音が響き渡り、ドンドンドンドン心が冷えていった。


「バスケなんて…バスケなんてしてなければ良かったのに……」


そうすれば膝を壊してグレたりしなかったのに……
そう思いながらも、バスケをしながら楽しそうに笑う三井しか思い出させない自分に嫌気がさした。


「本当に……莫迦みたい……」


いつの間にか流れ落ちた涙は、床に多くのシミをつくってゆく。
まるで大切な思いの欠片がホロホロと零れ落ちてなくなっていくようで……
余計に胸が痛くなった。



バトン


・嫌だよ
→嫌だ……


「何むくれてんだ?」
「なんでもない」


私以外の人に優しくしないで…
笑いかけたり…しないで……


「そんな面しといて、なんでもないってことはねぇだろうが…」
「本当になんでもないってば!莫迦寿っ!!」
「……………………………」


心中とは裏腹の素直になれない私の言葉に寿の眉間に深い深い皺が寄った。
私の言葉が寿を不快にさせていることはわかっていても、本音は口から漏れ出ることはない。
怖いから
本音を伝えて距離を置かれるのが…
怖いから
本音を伝えて重いと思われるのが…
だから、言葉が素直に出て来ない。


「……フゥ…」
「っっ!」


でも……
寿の口から漏れた重々しい溜め息はもっと怖くて……
震える手を伸ばして必死に寿の大きな身体に抱き付いた。


「お、おいっ?!」
「……………………………」
「……何してんだよ…たくっ……仕方ねぇな…」


焦った寿の様子が感じとれたけれど、顔もあげずに腕に力を更に込めれば呆れたような…でもどこか甘くて優しい声が聞こえて自身の身体の力が抜け、頭を撫でてくれる温かい手に目元が微かに濡れていった。



バトン


・『月見る少女』


◎↓↓内容↓↓

⇒「もうすぐね?月からお迎えが来るの……」
「あ゙?お前はかぐや姫かよ」
「ふふ♪そうかもね?」


月を見ながら穏やかに笑う彼女に憎まれ口を叩いた事が懐かしく思い起こされる。

あれは冗談なんかではなくて真実だったのかと
病室で冷たくなってゆく彼女の手を握り締め…知らぬ間に涙が零れ落ちた。


「起きろ…俺の為に…起きろよ……絶対……」


月には帰らせない

三井は唇を引き結び、握る手に更に力を加えながら室内を皓皓と照らす月を決意を込めて睨みつけたのだった。



バトン


・秘密がまた増えて
→一番重要な本心、゙好ぎが…更に更に罪深くなる。



「本当、可愛くねぇ〜〜…」
「うっさいなぁ〜!差し歯のあんたにごちゃごちゃ言われたくなぁ〜〜い!!」
「…テンメェ……」


額に青筋を浮かべた三井を莫迦にするように鼻で笑うと奴の眼差しが険しくなった。
強い輝きを放つ瞳が綺麗で。そこへ吸い込まれそうだ。


「なぁ〜〜に〜〜?泣き虫ヒサポン♪」
「ちょっ、なんだよっ!泣き虫ヒサポンってっっ!!」
「う〜ん…゙寿゙だから…ヒサポン……?」


けれど、そんな事言えるはずもなく。


「なんで疑問なんだよ!」
「え〜?!なんとなくぅぅ〜〜?」
「お前なぁ〜!!」
「うんうん。細かい事は気にしない気にしない!気にすると禿ちゃ・う・ぞ♪」
「強調すんじゃねぇぇっっっ!!」


怒り狂ってる三井にへらりっ、と笑ってみせる。
心の中でば好きだ好きだ゙と喚いているというのに。
決してそれは口から出る事はない。


「も〜やぁだぁぁ〜〜!!」
それは俺の台詞だっっ!!!


最初に゙好きな人は三井には秘密゙と嘯いた時から…
負の連鎖が止まらなくて。莫迦みたいに好きになる前に比べて秘密が増えていく。


「きゃはっ♪三井の変態〜〜!!」
変態はお前だっ!!
「チクるよぉ〜?彼女にある事ない事♪」
やめんかっ!ど阿呆っっ!!
「ふへへへへ♪」


それらは絶対明かせないけど、困らせはしないから。
ただ…秘密を守らせて……。
ひっそりと…好きなままでいさせて――…



バトン




初纏め 2010/03/08 01:04

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